急いで濡れた頬をハンカチで吸い取って振り返る。そこには、花束と陽光の好きなカフェオレ味のパンナコッタが売っている洋菓子店のシールが貼られた小さな箱を持って佇んでいる海里の姿があった。



「海…里。ご、ごめん変な所見せて。陽光のお墓参りだよね?私もう行く…「待って。」」



砂の付いているワンピースの裾を手で軽く払って、視線を逸らしながら立ち上がった私の手が貴方にそっくりな体温に捕まれた。不意を突かれたからか、大袈裟に自分の肩が揺れる。驚いたせいで涙の雨もぴたりと晴れた。


ジワリと冷や汗なのかただの汗なのか分からない水滴が額から吹き出て、背中をもなぞる。とても深刻そうな形相をした貴方と瓜二つの綺麗な顔。海里の視線に射られた私の足は、地面に貼り付けられてしまったのかと思う程に動けない。



爽やかとは言い難い風が、私達の間を通り抜けた。自分の長い髪が風に攫われる。海里の腕の中にある花弁もソヨソヨと揺れている。



「待って、祈姉ちゃん。謝るのは俺の方。偶然だとは云え、兄貴との会話を盗み聞きしてごめん。」

「そんな、海里は悪くないよ。私が勝手に話してただけで…「それからもう一つ、謝らないといけない事がある。」」

「え?」



私の声を遮った相手が、私の視線を絡め取った。彼の顔は依然として深刻に満ちているし、その表情が何を意味しているのか分からないせいで緊張が全神経に走る。



「一年前の今日、俺祈姉ちゃんに云ったでしょ。兄貴は亡くなったけれどきっと生きているから、だから祈姉ちゃんも幸せになってねって。」



とてもよく覚えている。それは、私の家まで送ってくれた海里が別れ際に放った台詞だ。彼の言葉に含まれた真意を私は未だに気付けないままでいる。