『深夜零時を過ぎたから日付が変わったね。今日は僕と祈ちゃんが初めてあの純喫茶で出逢った日だから、どうしても今日僕は祈ちゃんにプロポーズしたかったの。』
罪悪感と背徳感を伏せてひた隠しにして誤魔化し続けてきた私に対して、初々しく頬を紅潮させて言葉を紡ぐ陽向。いよいよ良心の呵責に耐えられなくなった私は嗚咽混じりに号泣した。
『祈ちゃん?どうしたの?』
『ごめん…なさい。ごめんなさい陽向。ごめんなさい。プロポーズはとっても嬉しいよ、こんな私と結婚したいと想ってくれて人生捨てたもんじゃないなって想えた。』
『それじゃあ…『だけどごめんなさい。』』
“私には、そのプロポーズを受け取る資格がないの”
その場で崩れ落ちて、大人気もなくワンワンと声を上げて泣き叫んだ。きっと陽向は酷く困惑しただろう。それなのに、彼はすかさずしゃがみ込んで私の背中を擦ってくれた。無償で抱き締めてくれた。私の愛してる体温と香りで包んでくれた。
動揺して、戸惑って、傷ついているのは間違いなく彼の方なはずなのに、そんな素振りを微塵も見せずに靨を浮かべた相手は私の涙が落ち着くまで黙って慈悲深く涙を袖口で拭ってくれていた。
『祈ちゃんがそのお返事をした理由、訊いても良い?』
床で小さくなっている私の手を握ったまま、柔らかな声色でそう問うた陽向の愛情と優しさが痛い程に胸に沁みた。どうして私は彼に秘密を作ってしまったのだろう。きっと理由を話せば彼を深く深く傷付けてしまう。
それでももう、誤魔化して騙し続けるのだけは嫌だった。