耳の傍で鳴いてるのではないかと疑うまでの大音量の蝉の合唱と、肌を突き刺す紫外線、そして私の手に握られたビニールに入っている汗をかいたパックのカフェラテ。毎年毎年、八月一日は雲一つない晴天に恵まれる。
首を伝う汗をハンカチで拭って、効果があるかは分からないけれど手でパタパタと蒸し暑い風邪を煽ぐ。花束とカフェオレを並べて、お線香に火を灯す。
「陽光、今年もちゃんと来たよ。」
貴方が私の傍からいなくなって六回目の夏。手を合わせ終わった私は、燃えて灰になっていくお線香をぼんやりと見つめて曖昧に微笑んだ。
日傘を差しているのに全然暑さが和らがない。燦燦と照りつける太陽が憎くすら感じる。淡い紫色のワンピースの裾はユラユラと泳いでいて、時間を掛けて巻いた髪はスプレーでしっかり固定したつもりだったのに汗と蒸れでウェーブが緩くなっている。
何から話をしようかな。去年とは違って、今年は貴方に話さなくてはいけない事が沢山ある。両手に抱えても溢れてしまう位にいっぱいだ。もしかしたら貴方はもう全部知っているかもしれないね。
だけど私の口から話をさせて欲しいの。この一年間はね、寂しかったけれどちっとも寂しくなかったんだよって伝えたい。桜色の髪と、蜂蜜色の双眸がとても美しい彼のおかげで私、ちゃんと笑えて過ごせたんだよ。
「難波 陽向って人に出逢ってね、恋をして、交際する事になって、同棲して……っ…プロポーズまでしてくれて、私には勿体ないくらいの素敵な人なの。」
嗚呼、まただ。また貴方の前で泣いてしまう。滲んでいく視界をどうにか元に戻そうと試みるものの、崩壊してしまった涙腺には逆らえず、ボタボタと大きな粒が頬を伝って顎から滴り落ち、陽炎が揺れる地面で燃える。
約二週間前の夜の出来事を反芻しながら語る私の唇は、声は、弱々しくて震えていた。