妙だ。帰宅してからずっと彼が偉く上機嫌だ。それだけではない、何だか彼が浮足立っている感じがする。とても珍しい陽向の姿を怪訝に思い、カフェオレを注ぎながら首を捻る。



どうしたのだろう。良い事でもあったのかな。いつも良い事があったら、彼はいの一番にこちらに報告してくれるけれど、夕食の時から今に至るまで特別な報告は一切受けていない。

彼の分のカフェオレと、私の分のオレンジジュースをテーブルに置いて眉間に皺を寄せる。再び思考を巡らせようとしたその時、私の目前に携帯の画面が現れた。長い形式ばった文章が並ぶその内容は、彼の採用内定を知らせる物だった。



「え!?!?内定!!!これ、陽向の第一志望の会社だよね!?」

「ふふっ、うん。無事に内定貰えました。」

「す、凄い!やった!おめでとう陽向!」

「ありがとう、祈ちゃんのおかげ。」



慌てて立ち上がって相手の胸へ身を投げる。そんな私の突飛な行動を彼は当たり前に包んでくれる。あ、髪の色が抜けてきてる。ほんのり桜色に染まっている毛先が視界に入るだけで胸がぎゅっと締め付けられる。

私は自分で思っていたよりもずっと、陽向の桜色の髪が好きだったのだと初めて気付く。



「私のおかげ?陽向の実力だよ。」

「ううん、毎日僕を出迎えてくれる祈ちゃんの笑顔を見る度に、頑張ろうって思えたから祈ちゃんのおかげ。」

「んっ…。」



触れるだけの口付けがもどかしい。もっと深いそれを求めてしまう。すぐに冷たくなった唇の寂しさを埋めるべく、かかとを上げて背伸びをする。

唇と唇が再び密着する寸前だった。



「これで漸く云える。ねぇ、祈ちゃん…。」