ちょっとベタで臭かっただろうか。

 だけど、俺なりにジャックの視点であの物語の続きを考えてみた。

 ジャックにしたら、本当は女の子と一緒にいたかった気持ちが、俺には良くわかる。

 その気持ちを、女の子──ジェナにわかってもらわなくては。

 ジャックの気持ちを表せるのは、この俺だけだから。

 俺は恥ずかしげもなく、この物語をジェナに送ろうと思う。

 気にいってくれるといいのだけど。


 それと、ハーレダヴィッドソンに乗っていた男性と一緒に写った画像も添付しよう。

 俺も彼に会えたと知ったら、びっくりするだろう。

 知らない人を追いかけるなんて、俺には大胆だったけど、でもあの男性が自分の娘の事を話すのと同じように、俺はジェナの事を伝えたかった。

 みんなどこかで大切な人の話を聞いてもらいたいのだと思う。

 何かの縁があって繋がり、例え一期一会でも、記憶に残っていてほしい。

 自分の事を知ってる人がまた一人増える。

 それもまた人生のスパイス、毎日の小さな喜びが積み重なっていく気分だ。

 人との繋がりがもたらすもの。

 今度は俺が出会ってよかったと思われたいものだ。


 だから俺は、クラスで自分を蔑んでいたあいつらとも最後に挨拶を交わした。

 最後だから、一緒に学んだ同士として握手を求めた。

 今までのわだかまりが嘘のように、すんなりとお互い笑えたのが気持ちよかった。

 自分が変われば相手も変わる。

 早くからこうすればよかった。

 でもあの時の俺では無理だった。

 なんでも殻に閉じこもっていると、簡単な事もできなくなる。

 見方を変えればいつだって何かが変わる。

 それでも手遅れではなかったのが幸いだ。

 最後の最後でお互い打ち解け、そして日本でいつか会おうという約束を取り付けた。


 その帰国だけど、日にちが決まり、チケットも手にし、身の回りの荷物をすでに日本に送った後、車も売れた。

 帰る準備が全て整った。

 あとは飛行機に乗るだけだ。

 留学生活は楽しかったし、とても充実して、自分なりの実りもあった。

 だから帰国するのはやっぱり寂しい。

 でも、久しぶりの日本も実は楽しみだ。

 帰ったら、食べたいものが一杯あるし、久々に会う友達に、自慢話だってしたい。

 英語を話せるようになった自信が漲って、誰かに新しい俺を見てもらいたくなる。

 でも、『スマッグ』にならないように、ある程度の謙遜も忘れないでおこうと思う。


 帰国準備で忙しかったから、なかなかジェナにメールができなかったけど、気にはなっていた。

 色々と書いてはいたけど、レポートを仕上げてるような大変さがあった。

 俺が英語でメールをするにはかなりの時間が掛かるのだ。

 喋るよりも書くことの方が苦手で、単語の綴りがあやふやになるときがある。

 多少間違っても、ジェナは許してくれるだろうけど、やっぱりスペリングミスはできるだけ避けたい。 

 だから、結構時間を要してしまい、アメリカを去る前にやっと俺はジェナにメールを送れるようになった。


 メールには、ジャック視点の物語、ジェナと別れてからの事、これから帰る事を綴った。

 最後に、

 『今日のオレゴンのお薦めはどこですか?』

 『面白い人はいましたか?』

 それで締めくくる。

 送信ボタンを押した。

「これでよし」

 それでほっとしていたら、その後あまり時間が掛からずに、すぐに返事が来た。

 早いよ、ジェナ。

 でもそのスピードが、俺にはジェナが身近にいるように思えて、とても嬉しかった。

 その反面、ジェナの病気の事を思うと正直つらい。

 彼女は今どんな気持ちでいるのか、俺には想像を絶するが、悲観的になってばかりもいられない。

 あの時、偶然にも俺が呟いた英語のことわざ、シルバーライニング──どんな辛いときにも希望がある。

 その言葉は自分にも返ってくる。

 俺はぐっと腹に力を込め、ジェナのメールを開いた。

 そして読んでいるうちに、俺の顔はどんどんとにやけていった。

 どうやら俺の作った話は気にいったようだ。

 片付けが済んだ殺風景な部屋で、俺は彼女からのメールを何度も読み返した。

 ジャックとして旅した思い出が心に溢れてくる。

 やっぱり君と知り合えて本当によかった。

 君を思うだけでこれまでのアメリカ生活がぐっと濃縮されて、胸がきゅっと締め付けられる。

 ジェナから貰ったスケッチブックはスーツケースに入れてあったけど、俺はそれを取り出しもう一度パラパラと眺めた。

 見終わったとき、白紙のページがまだまだ残っていた。

 それと同じように未知の未来がそこにあるようにも思えた。

 この先はなるようになるのだろうけど、とりあえず無事に日本に帰りたいと俺は願っていた。


 The End