5
リーズナブルなレストランで、俺たちは食事をしたまでは普通だった。
楽しかった旅を振り返り、思い出を語っていた。
お互い感謝の気持ちを伝え、連絡先を交換し、連絡を取り合う約束をしていた。
敢えて、見苦しい事はなかった事になって、お互いその話は避けていた。
これで本当にいいのか、俺はどうしてもすっきりしなかったが、今更どうすることもできず、ジェナが別れを受け入れている以上、これでいいと思うしかなかった。
ここまでは、なんとかいつもの二人でいられた。
だが、ホテルに戻って同じ部屋に入った時、俺たちは意識をし過ぎてぎくしゃくしてしまった。
部屋にはベッドが二つ。
窓際に近いベッドはジェナに譲った。
俺はバスルームと隔てた壁側のベッドに寝転び、スマホをいじっていた。
できるだけ平常通りにしていたつもりだが、どちらも何も話さない静かな部屋では、息するのも難しく思えた。
隣を気にしないようにと思うも、余計にぎこちなくなり、終いにはジェナに背中を向け横向きになった。
それがわざとらしい態度だというのに──
「そんなに緊張しなくていいよ」
ジェナがクスッと笑った。
「いや、そんなんじゃないよ」
ごまかしたところで、バレバレだ。
「最後の夜だね」
俺のベッドの端っこが沈む。
ジェナが俺のベッドに腰掛けていた。
ドキッとしながら、何事もないように背中を向けたまま「ああ」と返事した。
「ジャック、こっち見て」
「ん?」
重くならないように、とぼけたふりして軽く答えた。
「ジャック」
ジェナは俺の上に覆いかぶさってきた。
「おいっ!」
慌てて体を起こすも、ジェナは俺にしがみつく。
「ジャック、私、別にいいんだよ」
「いや、それは」
ジェナが自分の服に手をかけ脱ごうとする。
「ジェナ、ストップ!」
「どうして止めるの」
「俺は、ストレンジャーだけど、最後までいいストレンジャーでいたい」
「いいストレンジャー?」
「そうだ。いいストレンジャーだ。これ以上、俺が悪いストレンジャーになる前に、そこを下りてくれ」
ジェナは溜息を一つ吐き、諦めて俺のベッドから下りた。
そして自分のベッドの縁に腰掛け、押し寄せる感情を拭い去ろうとじっと目を瞑っていた。
目が開いた時、俺を見て鼻で笑って意地悪く言った。
「後悔するよ」
「例え後悔してもだ」
「真面目で誠実で優しいんだね」
「俺はそんなんじゃない。ただの気ままな奴さ」
「だけど、残念だな。男の人の裸、生で見たかったな」
「ええ!」
「ジャックが寝てる時、襲っちゃう」
「冗談はやめろ」
ジェナは笑っていた。
だが、突然すくっと立ったので、俺は一瞬びくっとしたが、その後、手荷物を持ってバスルームに篭った。
暫くしてから、シャワーを出す音が部屋いっぱいに広がり、うるさいけれども、この時はそれが必要だったように、少しだけ息がつけた。
ジェナがバスルームから出てきた後は、今度は俺がバスルームに篭った。
ジェナと同じ部屋にいる事がいけない事のようで、もしまたジェナが俺に覆いかぶさり、雰囲気を作られたら俺はそこで流される予感がする。
できるだけゆっくり風呂に入る事にした。
俺が風呂から出た時は、ジェナはすでにベッドに入り、休んでいた。
少しほっとし、少しがっかりし、少し寂しかった。
最後とわかっていても、だから何をすべきかもわからない。
またもやもやしては、自分が何をしたいのか、何を期待しているのか、わかってるようでわかったらいけない、ただ、とても切なく胸が締め付けられた。
早く寝たら楽になる。
俺もベッドに入り、スタンドの電気を消した。
なかなか寝付けないと思っていたが、知らずと夢を見ていたように思う。
夢を見たという事は寝ていたのだろう。
それは夜更けの、朝にはまだ遠い時間帯。
でも眠りは浅かった。
静かな部屋でカサカサと音がする。
空気の乱れを感じぼんやりと目を開けると、ジェナ側のスタンドの明かりがついていた。
ジェナの姿が見える。
自分のベッドの上に腰掛け、俯き加減にごそごそと手で何かを触っていた。
何かが違う。
そこにあるのが不思議なものだ。
確か、俺はアレを……壊した?
意識がはっきりとしたその時、ジェナがメガネを掛けて、俺の財布を手にしているのが見えた。
リーズナブルなレストランで、俺たちは食事をしたまでは普通だった。
楽しかった旅を振り返り、思い出を語っていた。
お互い感謝の気持ちを伝え、連絡先を交換し、連絡を取り合う約束をしていた。
敢えて、見苦しい事はなかった事になって、お互いその話は避けていた。
これで本当にいいのか、俺はどうしてもすっきりしなかったが、今更どうすることもできず、ジェナが別れを受け入れている以上、これでいいと思うしかなかった。
ここまでは、なんとかいつもの二人でいられた。
だが、ホテルに戻って同じ部屋に入った時、俺たちは意識をし過ぎてぎくしゃくしてしまった。
部屋にはベッドが二つ。
窓際に近いベッドはジェナに譲った。
俺はバスルームと隔てた壁側のベッドに寝転び、スマホをいじっていた。
できるだけ平常通りにしていたつもりだが、どちらも何も話さない静かな部屋では、息するのも難しく思えた。
隣を気にしないようにと思うも、余計にぎこちなくなり、終いにはジェナに背中を向け横向きになった。
それがわざとらしい態度だというのに──
「そんなに緊張しなくていいよ」
ジェナがクスッと笑った。
「いや、そんなんじゃないよ」
ごまかしたところで、バレバレだ。
「最後の夜だね」
俺のベッドの端っこが沈む。
ジェナが俺のベッドに腰掛けていた。
ドキッとしながら、何事もないように背中を向けたまま「ああ」と返事した。
「ジャック、こっち見て」
「ん?」
重くならないように、とぼけたふりして軽く答えた。
「ジャック」
ジェナは俺の上に覆いかぶさってきた。
「おいっ!」
慌てて体を起こすも、ジェナは俺にしがみつく。
「ジャック、私、別にいいんだよ」
「いや、それは」
ジェナが自分の服に手をかけ脱ごうとする。
「ジェナ、ストップ!」
「どうして止めるの」
「俺は、ストレンジャーだけど、最後までいいストレンジャーでいたい」
「いいストレンジャー?」
「そうだ。いいストレンジャーだ。これ以上、俺が悪いストレンジャーになる前に、そこを下りてくれ」
ジェナは溜息を一つ吐き、諦めて俺のベッドから下りた。
そして自分のベッドの縁に腰掛け、押し寄せる感情を拭い去ろうとじっと目を瞑っていた。
目が開いた時、俺を見て鼻で笑って意地悪く言った。
「後悔するよ」
「例え後悔してもだ」
「真面目で誠実で優しいんだね」
「俺はそんなんじゃない。ただの気ままな奴さ」
「だけど、残念だな。男の人の裸、生で見たかったな」
「ええ!」
「ジャックが寝てる時、襲っちゃう」
「冗談はやめろ」
ジェナは笑っていた。
だが、突然すくっと立ったので、俺は一瞬びくっとしたが、その後、手荷物を持ってバスルームに篭った。
暫くしてから、シャワーを出す音が部屋いっぱいに広がり、うるさいけれども、この時はそれが必要だったように、少しだけ息がつけた。
ジェナがバスルームから出てきた後は、今度は俺がバスルームに篭った。
ジェナと同じ部屋にいる事がいけない事のようで、もしまたジェナが俺に覆いかぶさり、雰囲気を作られたら俺はそこで流される予感がする。
できるだけゆっくり風呂に入る事にした。
俺が風呂から出た時は、ジェナはすでにベッドに入り、休んでいた。
少しほっとし、少しがっかりし、少し寂しかった。
最後とわかっていても、だから何をすべきかもわからない。
またもやもやしては、自分が何をしたいのか、何を期待しているのか、わかってるようでわかったらいけない、ただ、とても切なく胸が締め付けられた。
早く寝たら楽になる。
俺もベッドに入り、スタンドの電気を消した。
なかなか寝付けないと思っていたが、知らずと夢を見ていたように思う。
夢を見たという事は寝ていたのだろう。
それは夜更けの、朝にはまだ遠い時間帯。
でも眠りは浅かった。
静かな部屋でカサカサと音がする。
空気の乱れを感じぼんやりと目を開けると、ジェナ側のスタンドの明かりがついていた。
ジェナの姿が見える。
自分のベッドの上に腰掛け、俯き加減にごそごそと手で何かを触っていた。
何かが違う。
そこにあるのが不思議なものだ。
確か、俺はアレを……壊した?
意識がはっきりとしたその時、ジェナがメガネを掛けて、俺の財布を手にしているのが見えた。