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博物館を出て、さらに車で30分のところ、お昼を回ったところで『Tillamook Cheese Factory』に着いた。
チーズファクトリーというくらいだから、チーズ工場だが、ジェナ曰く、無料で工場内を見学できる人気スポットだそうだ。
その周りに広がるのどかな田園風景の中に牛が一杯いた。
その先に四角い大きな建物がどでーんとあり、それがチーズ工場だった。
なぜかその隣に船まで置いてあった。
モーニングスターと名称されたその船は、今ではティラモックチーズのロゴにも使われている。
昔はこの船に積んでマーケットに運んだそうだ。
それがシンボルとなってここに残り続けていた。
ビジターセンターとかかれたその入り口は、無料とあって、沢山の観光客が訪れていた。
工場内を全体に見渡せるガラス張りにされた高い位置で、見学者は自由にチーズ作りの過程を見る事ができる。
箱ぐらいあるサイズのチーズの塊がベルトコンベアーで流れて、カットされ、最後にパックされるのだが、それが見てて気持ちいい。
ジェナが隣で手を振っている。
流れるチーズの前で立っている、頭に白いギャザーキャップをつけたおじさんが、それに応えていた。
最後に大変な作業だと、額の汗を拭う仕草をわざと俺たちに見せつけた。
そういうコミュニケーションを取るところがアメリカらしかった。
「ここは何度も来てるのよ」
ジェナはニコニコとしていた。
「そんなに来て飽きない?」
「全然飽きないよ。こっちきてみて」
全てを見終わった後、ジェナは下へ下りていく。
そこは土産物売り場に繋がっていた。
そしてチーズの試食ができるように、カッティングされたチーズが一杯用意されていた。
それがあるから、飽きないらしい。
早速俺もご賞味させてもらう。
チーズカードというのを口にいれたら、噛み応えのある歯ごたえにびっくりした。
「何これ」
「酵素で固めただけのチーズの初期の原形。そこからチーズは発酵してちゃんとした形になるけど、これはチーズの赤ちゃん」
「へぇ、初めて食べた。噛んだ時がなんか『キュッキュ』ってする」
「『キュッキュ』?」
「スクウィーク、スクウィーク(squeak)かな?」
「えっ? ねずみがチュウチュウ?」
スクウィークは主にネズミが鳴くときに用いられる単語だった。
キュウキュウもあるけど、伝わらなかった。
噛んだ時にキシッとするような歯ごたえを言いたかったのだが、こういう擬音語の感覚はちょっと英語で説明するのが難しかったので、その後は笑ってごまかした。
土産物屋の隣の場所に足を踏み入れれば、人が一杯いて列をなしている。
そのそばでアイスクリームコーンを持った人がたくさんいた。
ケースの中を覗きこめば、色んな種類のアイスクリームが売っていた。
ここではアイスクリームも作っていた。
「アイスクリーム食べる?」
ジェナが食べたそうにしている。
「先に昼ごはん食べたいな」
時間もいい頃で、俺は腹が減っていた。
他にもホットドッグやハンバーガーなどが売られて、食事もできるようになっていた。
俺はティラモックのチーズが使われたサンドイッチを頼むことにした。
そしてもちろんデザートはアイスクリームだった。
アイスクリームの美味しさの基準はよくわからないが、これはもっちりねっとりとした食感があって、なかなかだった。
しかし、シングルサイズでも、ワンスクープがでかい。
ある人はバナナスプリットを頼んでいて、バナナを縦に切り込んでそこに三つスクープを乗せ、チョコレートかけて、生クリーム乗せて、最後に赤いチェリーを乗せている。
あんなの生で初めてみた。
ジェナと一緒に食べてみたかったかもしれない。
ティラモックには自然に触れられるフォーレストセンターや灯台、滝など見どころは他にもあるが、それぞれ離れた場所にあり、全部は回れないので、チーズ工場を見学した後はキャノンビーチに向かった。
俺が行きたがっていたのを覚えていて、そこを最後にしようとジェナは決めたらしい。
突然の旅の終わりに、俺は複雑だった。
「ここからキャノンビーチまで一時間くらい」
ジェナは時計を見ながら言った。
「そこへ行ったら、俺たちの旅は終わりだね」
「そうだね」
「でも、俺は君のメガネを壊してしまったし、どうやって車を運転して帰るんだ」
「予備のメガネをもってきてもらえるように誰かに頼む」
「そんな…… ジェナの家はどこなんだ」
「ポートランド近郊」
「だったらなぜそっち方面に行った時にメガネを取りに帰らなかったんだ」
「だって、ジャックと一緒に旅行してるって親にばれたら反対されると思ったし、ジャックに迷惑かかると思った」
それもそうだ。
車をここにおいたまま、どうやって家に戻って来たなんてきかれたら、俺の事説明しないといけなくなる。
見知らぬ男と一緒に旅行するなんて、やっぱり尋常じゃなかった。
「なぜ、危険を冒してまで俺と旅行しようと思ったんだ」
「ジャックは全然危険じゃない」
「でも、やっぱり見知らぬ男と二人で急に旅行するなんて危ないことだ」
「危なくなんかなかったよ、ジャックは思った通りの人だった」
「俺の場合、その、たまたまだ」
俺はもちろん間違いなんて起こすつもりはなかった。
でもジェナの行動に圧倒されて、成り行き上こうなって旅を続けた。
だけど一般論からしたら危ない行為だ。
それを言いたいが、一緒に旅行し終わった後では説得力に欠けた。
仕方がなく、その後は黙り込んだ。
そして俺たちはティラモックを後にして、有名な岩のあるキャノンビーチへと向かった。
それが俺たちの旅行の終着点──。
博物館を出て、さらに車で30分のところ、お昼を回ったところで『Tillamook Cheese Factory』に着いた。
チーズファクトリーというくらいだから、チーズ工場だが、ジェナ曰く、無料で工場内を見学できる人気スポットだそうだ。
その周りに広がるのどかな田園風景の中に牛が一杯いた。
その先に四角い大きな建物がどでーんとあり、それがチーズ工場だった。
なぜかその隣に船まで置いてあった。
モーニングスターと名称されたその船は、今ではティラモックチーズのロゴにも使われている。
昔はこの船に積んでマーケットに運んだそうだ。
それがシンボルとなってここに残り続けていた。
ビジターセンターとかかれたその入り口は、無料とあって、沢山の観光客が訪れていた。
工場内を全体に見渡せるガラス張りにされた高い位置で、見学者は自由にチーズ作りの過程を見る事ができる。
箱ぐらいあるサイズのチーズの塊がベルトコンベアーで流れて、カットされ、最後にパックされるのだが、それが見てて気持ちいい。
ジェナが隣で手を振っている。
流れるチーズの前で立っている、頭に白いギャザーキャップをつけたおじさんが、それに応えていた。
最後に大変な作業だと、額の汗を拭う仕草をわざと俺たちに見せつけた。
そういうコミュニケーションを取るところがアメリカらしかった。
「ここは何度も来てるのよ」
ジェナはニコニコとしていた。
「そんなに来て飽きない?」
「全然飽きないよ。こっちきてみて」
全てを見終わった後、ジェナは下へ下りていく。
そこは土産物売り場に繋がっていた。
そしてチーズの試食ができるように、カッティングされたチーズが一杯用意されていた。
それがあるから、飽きないらしい。
早速俺もご賞味させてもらう。
チーズカードというのを口にいれたら、噛み応えのある歯ごたえにびっくりした。
「何これ」
「酵素で固めただけのチーズの初期の原形。そこからチーズは発酵してちゃんとした形になるけど、これはチーズの赤ちゃん」
「へぇ、初めて食べた。噛んだ時がなんか『キュッキュ』ってする」
「『キュッキュ』?」
「スクウィーク、スクウィーク(squeak)かな?」
「えっ? ねずみがチュウチュウ?」
スクウィークは主にネズミが鳴くときに用いられる単語だった。
キュウキュウもあるけど、伝わらなかった。
噛んだ時にキシッとするような歯ごたえを言いたかったのだが、こういう擬音語の感覚はちょっと英語で説明するのが難しかったので、その後は笑ってごまかした。
土産物屋の隣の場所に足を踏み入れれば、人が一杯いて列をなしている。
そのそばでアイスクリームコーンを持った人がたくさんいた。
ケースの中を覗きこめば、色んな種類のアイスクリームが売っていた。
ここではアイスクリームも作っていた。
「アイスクリーム食べる?」
ジェナが食べたそうにしている。
「先に昼ごはん食べたいな」
時間もいい頃で、俺は腹が減っていた。
他にもホットドッグやハンバーガーなどが売られて、食事もできるようになっていた。
俺はティラモックのチーズが使われたサンドイッチを頼むことにした。
そしてもちろんデザートはアイスクリームだった。
アイスクリームの美味しさの基準はよくわからないが、これはもっちりねっとりとした食感があって、なかなかだった。
しかし、シングルサイズでも、ワンスクープがでかい。
ある人はバナナスプリットを頼んでいて、バナナを縦に切り込んでそこに三つスクープを乗せ、チョコレートかけて、生クリーム乗せて、最後に赤いチェリーを乗せている。
あんなの生で初めてみた。
ジェナと一緒に食べてみたかったかもしれない。
ティラモックには自然に触れられるフォーレストセンターや灯台、滝など見どころは他にもあるが、それぞれ離れた場所にあり、全部は回れないので、チーズ工場を見学した後はキャノンビーチに向かった。
俺が行きたがっていたのを覚えていて、そこを最後にしようとジェナは決めたらしい。
突然の旅の終わりに、俺は複雑だった。
「ここからキャノンビーチまで一時間くらい」
ジェナは時計を見ながら言った。
「そこへ行ったら、俺たちの旅は終わりだね」
「そうだね」
「でも、俺は君のメガネを壊してしまったし、どうやって車を運転して帰るんだ」
「予備のメガネをもってきてもらえるように誰かに頼む」
「そんな…… ジェナの家はどこなんだ」
「ポートランド近郊」
「だったらなぜそっち方面に行った時にメガネを取りに帰らなかったんだ」
「だって、ジャックと一緒に旅行してるって親にばれたら反対されると思ったし、ジャックに迷惑かかると思った」
それもそうだ。
車をここにおいたまま、どうやって家に戻って来たなんてきかれたら、俺の事説明しないといけなくなる。
見知らぬ男と一緒に旅行するなんて、やっぱり尋常じゃなかった。
「なぜ、危険を冒してまで俺と旅行しようと思ったんだ」
「ジャックは全然危険じゃない」
「でも、やっぱり見知らぬ男と二人で急に旅行するなんて危ないことだ」
「危なくなんかなかったよ、ジャックは思った通りの人だった」
「俺の場合、その、たまたまだ」
俺はもちろん間違いなんて起こすつもりはなかった。
でもジェナの行動に圧倒されて、成り行き上こうなって旅を続けた。
だけど一般論からしたら危ない行為だ。
それを言いたいが、一緒に旅行し終わった後では説得力に欠けた。
仕方がなく、その後は黙り込んだ。
そして俺たちはティラモックを後にして、有名な岩のあるキャノンビーチへと向かった。
それが俺たちの旅行の終着点──。