飛行機を十分堪能した俺たちは、マックミンヴィルの街の中心部へと向かった。

 予約を入れてる宿も、その周辺にあったので、ついでに見ておこうというくらいに立ち寄った。

 適当に車を停め、街を散策する。

 こじんまりとした、あまり活気のない街並み。

 でもまとまりがある一昔前のアンティークな雰囲気に見えたのは、街全体のビルが高くなく、街路樹が多く、そこに歴史があるようなホテル、ビストロやアイスクリームショップなどが並んでいたからだと思う。

 適当に歩いている時、ブロックの角、ちょうどUSバンクの看板の下に、ベンジャミンフランクリン──銅像──がくつろいで座ってるベンチがあった。

 「時は金なりの人だ」と俺が言うと、ジェナは「100ドル札の人」と言った。

 俺たちは彼の隣に一緒に座っておどけ、お互い写真を撮りあった。

 銀行がある角にベンジャミン・フランクリンがいると、お金のイメージにぴったりときた。

「アメリカ人は彼の事好きだろうね」

「特に彼の顔が描かれた紙幣が一杯手元にあるとね」

 俺も福沢諭吉が一杯手元にあったら嬉しい。

「この街は、これといって見るところはあまりなさそうだね」

 ポートランドのダウンタウンを見た後では、俺は少し物足りなかった。

「小さな町だけど、毎年5月中旬の3日間はUFOフェスティバルで賑わうの」

「UFOフェスティバル?」

「1950年にここでUFOが目撃されたことを誇りに思って、1999年から歴史あるマックメナミンホテルで始まったイベントなの」

「ええ、ここでUFOが目撃されたの?」

「そうらしいね」

 ジェナは肩を竦め、真実かどうかわからないと困ったように笑っていた。

「どんなフェスティバルなんだろう」

「宇宙人にコスプレしたり、著名人を招いてのショーやパレード、屋台も一杯でるらしい。動物まで宇宙人の格好させられて、それはクレージーで面白いらしい」

「宇宙人って言ったら、ニューメキシコのロズウェルが有名だよね」

「そこもフェスティバルやってるけど、その次に人気の場所がここ」

「へぇ、見てみたかったな。ちょうど終わった後だったんだ」

 UFOが現れたというマックミンヴィルの空を俺は仰ぎ、想像力を働かせた。

「あっ、UFO」

「えっ?」

 そんな古典的な古い手にもジェナは騙されて、空を見た。

 俺がしてやったり! と笑ってると「あっ、ほんとだ。UFOだ」とシレッと返ってきた。

「えっ!?」

 俺は空を二度見した。

「メージャルック!」

 ジェナが指を差して笑う。

 今度は俺が騙された。

 『Made you look』

 映画『アラジン』の最後にジニーも言っていたセリフ。

 『やーい、ひっかかった』てな具合である。

 マックミンヴィルの街を散策した後は、宿──ホテルとはまた違う安さが売りもの宿泊施設──に俺たちは到着した。

 できるだけ予算を削った旅行を続けてるので、食事も簡単なものが多い。

 でも今日はレストランで食べようと、俺はジェナに提案した。

「これだけ案内してもらってるから、今日のディナーは俺が奢るよ」

「いいよ、気にしないで。私もとても楽しんでる。ジャックが一緒に来てくれて最高の旅行」

「いいから、いいから。その代り、今日のディナーは俺が選ぶから。その覚悟で」

「わかった。食べたい物があるのなら、喜んで付き合う」

「よし! それじゃちょっと服着替えてくる」

「えっ、服着替えるの?」

「やっぱりレストランだから」

「でも、私、そんないい服持ってないけど」

「ジェナは何でもいいよ。俺だって、ジャケット一枚、何かの時のために持ってきただけだから、そんなにいい服じゃないんだ。すこしだけきちっとみえるようにっていうくらい」

「わかった。それなら、スカートっぽいの持ってるから、それ着る」

 そういえば、ジェナはいつもカジュアルなパンツスタイルだった。

 足も長くスタイルもいいから、飾り気のない服でもスタイリッシュに見える。

 だから、この日、ジェナが膝までの丈のワンピースを着ているのを見るとドキッとした。

 すこしだけ薄らと化粧もして、気を遣っておしゃれしてくれた。

「すごくいいね。そのドレスもとても似合ってて、すごくきれい」

「これドレスじゃなくて、チュニックなんだけど、丈が少し眺めだからワンピースとして着てもいいかなって思って」

 ドレス、チュニック、ワンピース、その違いは良くわからないが、とにかく、ふわっとしてすっと足が出ているその明るめの服は、とてもかわいらしかった。

 もちろん、ジェナも含めて。

「ジャックもナイス」

 ナイスという表現は、とりあえず褒めとけという、とってつけたような感じもするが、俺が気取って腕を突き出すと、ジェナはしっかりと組んでくれた。

「それじゃ、行こうか」

 俺はジェナをリードする。

 グーグルマップで予め行き先を調べてるから、なんとか目的地につけそうだ。

 そんなに離れてなかったので、20分くらいでそこに着いてしまった。

 ストリートの端に車を停め、俺はジェナをエスコートする。

 精一杯のお洒落をして、二人とも少し背伸びをして大人っぽくふるまっていたように思う。

 ジェナが絶対喜んでくれると確信してたので、俺は内心とてもワクワクして、落ち着かなかった。

 そして、そこに着いた時、ジェナは思った通りに目を丸くした。

 これだけでも、俺は『ヤッター』と心の中でガッツポーズしていた。