建物もでかいけど、駐車場も広い。

 そんな大きなものをポンと建てられる土地がとにかく一番大きい。

 周りはそんな同じサイズの博物館がいくつも建てられそうに、ほんとに巨大。

 その敷地内に入れば、おもちゃみたいに、本物の飛行機がポツポツ置いてあった。

 施設も大型博物館が向かい合って二つとその間に映画館が一つ。

 周りが何もないから、これだけでかいのに全然目立ってない景色が不思議と地味。

 しかし、その施設を全部見ようと思ったら、かなりの時間を費やしそうだった。

「今日はここで一日がつぶれそうだから、先に宿をブッキングした方がいいかも」

 俺が言うと、「そうした方がゆっくりできるね」とジェナも同意してくれた。

 俺は早速スマホでこの辺りの宿を探す。

 すぐさま、この施設の近くでそれなりの値段で泊まれる宿を見つけ、やっぱりここでも二つ部屋を取った。

 建物の入り口に向かえば、その正面玄関の隣に、結構年をいった人たちで集まったブラスバンドがいた。

「なんかあるんだろうか」

「多分、ボランティアとか、または特別な事があって、集まってるんだと思う」

 これだけ大きい博物館だから、いろんなイベントや何かのグループをサポートしたりするのだろう。

 音合わせをしたのち、急に静まり、そして力強い音が響き渡った。

 アメリカ国歌だ。

 なんかかっこいいと思っていたら、周りの人たちが全員立ち止まり、右手を胸に当ててその演奏を黙って聴き出した。

 ジェナですら、同じポーズをして聴いている。

 正直「ええ」っと驚いた。

 まるで、パブロフの犬のように、国歌が演奏されると、それが当たり前に行われている。

 俺もすべきなんだろうか。

 でも俺、アメリカ市民じゃないし。

 一人だけ浮いているように、結局、嘘でも真似することができずに、ただ突っ立ってアメリカ国歌を聴いていた。

 周りが気になり、人々の顔を見回したが、誰もが静かに尊重して自国の国歌を聴いていた。

 なんだかそれが、アメリカの国力にも思え、すごく圧倒された。

 それが終わると、拍手喝采が起こり、呪縛が解けたように人々はまた動き出した。

「なぜ、みんなアメリカ国歌が流れると、胸に手を置いて立ち止まるんだ?」

 俺は不思議でならなかった。

「うーんと、習慣かな。これは幼稚園の頃からそういう風に習うの。朝、国旗を見て胸に手を当て、星条旗に忠誠を誓ったりするし」

 Pledge of Allegiance──忠誠の誓い──というそうだ。

 ちなみに全文はこうである。

 I pledge allegiance to the flag of the United States of America and to the Republic for which it stands one Nation,under God,indivisible,with liberty and justice for all. 

 日本語に訳せば、『私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います』ということだそうだ。(ウィキペディアより引用)

 朝からクラス全員で、これを唱えられると、とても迫力ありそうだ。

 これぞアメリカ。

 自分の国を誇りに思ってない俺は、一体……

「ジャック、中に入ろう」

 国歌演奏が終わると、次はどこかで聴いたような明るいメロディが奏でられた。

 もう一度演奏されてるバンドを振り返ってから、俺はジェナの後を追った。

「ねぇ、ジェナ、ホームスクールでも、家でああいう事するの?」

 チケットを買うために列に並んでるジェナの後ろから話しかけた。

「私は途中からホームスクールに変えたの。だから小学生の時は普通に学校に通ってた」

「なんで途中で変えたんだ?」

「えっと、それは、学校で習う事以上の事を習いたかったから。もっと自由に、できるだけ沢山の事を」

「すごいな、ジェナ。ものすごく勉強したんだ」

「でも、そうせざるを得なかっただけなの」

「えっ?」

 何か矛盾した答え方のように聞こえた。

 学びたいと思ってるのに、そうせざるを得ないって、やりたい事やれて、やらされたっていう風にとれる。

 また俺の英語力がないせいなのか。

 どういう意味か確認したくても、背中向けてるジェナに、それ以上訊けない雰囲気がした。