本屋がある辺りが、パール地区と呼ばれ、元工業地帯で倉庫が沢山あるだけの地域だったらしい。

 そこを改造して、店やレストラン、アートギャラリー、おしゃれなアパートが集まる地区になってきている。

 まだ開発中らしく、工事中な所もあった。

 その中でもポートランドに来たら、絶対に食べないといけないパン屋があるとジェナが教えてくれた。

「パールベーカリー。ここは全米でも5本の指に入るくらい美味しいパン屋さん。ずっと前だけどフランスのパンコンテストで2位を獲った事があるってママが言ってた」

「へぇ、フランスで2位って、結構すごい成績だね。1位はやっぱりフランスだったの?」

「ううん、優勝は日本なんだって」

「ええ!」

 それって日本すごいじゃないか。

 俺も日本のパンはどこよりも美味しいとは思うけど、世界に認められてるとはすごいな。

 本屋を出て、1ブロック歩いたその先にそのパン屋があったので、俺たちはそこへ入ってパンを一つ買った。

 カウンターの後ろにラックに乗ったパンが見える。

 飾り気のない、パンだけを売ってる素朴な感じがした。

 それを持って、また一ブロック歩くと木が生い茂げった縦に長い公園に出くわした。

 子供たちが遊ぶ遊具や、ベンチがあり、俺たちはそこでパンを頬張った。

 鳥がさえずり、鳩が足元に寄ってくる。

 微笑み合ってジェナとおいしパンを頬張ってたとき、目の前を変なものが通っていった。

 車輪がついたバーのカウンターのような屋台。

 大勢がそれを囲んで座りながら、座席に添えられていたペダルをこいでいた。

 先頭はハンドルをもってそれを引っ張るようにペダルをこいでいる。

「あれはビール飲みながら自転車に乗れるツアー。ブリューサイクルっていうの」

「何それ」

「ブリューバージって船バージョンもあって、川の上をビール持って足でこぐみたい」

「ええ、何それ」

「だから言ったでしょ、ポートランドを変にし続けるって」

 ほんと変な発想だ。

「ねえ、ジャックはビールが好き?」

「好きって、まあ飲むけど足でこぎながら飲むのは、あまり」

「別に、あれに参加しなくていいけど、ポートランドはブリューワリーで有名で、色んなビールが飲めるよ」

「ノーサンキュー」

 ビールは味の違いが判るほどの通じゃないし、昼間から飲むのもあれだった。

 パンを食べたところで、俺たちはさらに観光を始めた。

 ブティックやレストランがたくさんあるお洒落な『NW 23rd Avenue』は歩いていける距離だったが、ショッピングには興味がなかったのでパスした。

 でもジェナの話によるとゆっくり散策するにはもってこいらしい。

 そこが新しく開発されたときは、ダウンタウンの中で一番ホットだったらしいが、今はもっとおしゃれな通りが増えてきて、絶えずホットな場所が変化しているそうだ。

 他にも『N Mississippi Ave』や 『N.E. Alberta St』などダウンタウンからウィラメット川を越えた方面もおしゃれになってきているそうだ。

 そんな事を説明されても、俺にはちんぷんかんぷんだったが、ジェナはそういう情報に敏感らしい。

 さらに『SE Division Street』は朝昼晩1週間食べ歩きしても足らないくらいのレストランが並ぶストリートで、美味しいものが一杯あるという。

 2005年にオープンして以来、瞬く間に全米にも知れ渡るくらい有名なレストランが誕生しているという。

 アメリカ料理って大雑把で大味が多いけど、ポートランドはどうやらグルメな街らしい。

 そんな話を聞きながら、ブロードウェイ通りを真っ直ぐ北に向かっていた。

 ホテルやオフィスといったビルが立ち並んでる中に、緑が混じっている。

 落ち着きがあるその街並みの中、レンガを引きつめた広場──パイオニア・コートハウス・スクウェア──が現れた。

「誰か傘持ってる」

 俺が指を差す。

 傘をささないと聞いていたし、雨は降ってないし、その広場の端に傘を差した黒っぽい人影が立っていたのが違和感だった。

「あれもパブリックアート」

 ジェナが言った。

 近づいてみたら、ほんとに銅像だった。

 他にもその広場周辺に動物の銅像が多数あって、これは可愛かった。

 その1ブロック先にも『ディレクター・パーク』があり、規模は小さいけど、直接地面から水が出てくる噴水や、両手で抱えないと持てない駒と大きなチェス盤が地面に描かれていて実際遊べるなど、そこはコンクリート的なモダンなデザインで人々の憩いの場となっていた。

「ここはできてまだ間もない新しいところ。イベントが良く催される」

 だれかがベンチに座ってPCを操っていた。WiFiも設置されている! すごい。

「技術の先端いってるね」

 俺は感心してしまった。

「今もまだ色んな工事があちこちで行われてるから、この先もっと変わると思う」

「どんな風に変わるんだろう。楽しみだね」

 ワクワクしている俺の隣でジェナはまた寂しげに辺りを見ていた。

 そうだ、ジェナはオレゴンから出ていくかもしれないんだった。 

「ジャック、疲れてない?」

「大丈夫。散策するのが楽しい」

「よかった」

 まだまだ俺たちはさらにその先を歩いた。