あの日、突然ジャックがやって来た。

 違う、私が呼んだに過ぎない。


 父親が運転する車から降りようとドアを開け、助手席に座っていた母が振り返り何か言おうとして、唇を震わせたのを無視して、さっさと家の中へと入ったあの日。

 二階に続く階段を一目散に駆けあがり、自分の部屋へ飛び込んでバタンと力強くドアを閉めた。

 窓から見える空は雨でも降りそうに曇っていた。

 何も考えられず、自分の部屋を見回した。

 溜息を吐いた時、体の力も一緒に抜けた。

 あの時、すでにジャックは来ていた。


「えっ、僕が見えるの?」

「ええ、見えるわ」


 ジャック──それが私の希望だった。

 私はスケッチブックを取り出して、ジャックの姿を無我夢中で描いた。

 君はジャック。

 きっと私を助けてくれる。

 ジャックに頼ることしかできなかった。

 あんなことを聞かされた後では、特に。

 だからあの日、ジャックを描きながら、涙が止まらなくなった。

 そんな涙でも、私は願った。

 全てを洗い流してくれたらいいのにと。


 私はこれからどうしたらいいの?

 ねぇ、ジャック、教えて……