「ああ、それからちゃんと体を休めてくださいね。人間は壊れやすいですから」
「…………」
「シスターは手当てが苦手ですし、応急処置も雑でしたから、昨日のうちに怪我を全て完治させておきました☆」
「…………」

 黙ったままのシスターの顔を悪魔は覗き込んだ。
 それを見越して彼女は思い切り悪魔に頭突きを食らわす。
 ゴッ、と。物凄い音がした。

「……痛っ」
「………」

 双方ともに声にならないほど痛かったようで、しばらくその場に座り込んだ。

「シスターどうしたんです?」
「今日はアンタが妙に気持ち悪いことを言うから、夢じゃないかって」
「酷い」
「今度は何を企んでいるのよ?」

 悪魔は額をさすりながら、口元を緩めた。

「大したことじゃありません」

 悪魔は胸を突き刺すような痛みに──いつもの作り笑顔が崩れた。金髪の美女は怪訝そうに眉を吊り上げる。

「じゃあ、なに?」

 今も彼女が目の前にいる。たったそれだけのことなのに、悪魔は自然と口元が緩んだ。

「……ただ、もう少しだけ貴女と一緒に旅がしたいだけです」

 あと何度、過去を繰り返すことが出来るか。たとえ何度繰り返しても彼女の答えも、結末も変わらないのかもしれない。
 されど一分、一秒でも彼女と他愛のないひと時を過ごしたい。

「あー、もう! しょうがないわね。付いて来るなら勝手にしなさい」

 心底嫌そうな顔をしつつも、次の瞬間シスターは眉を八の字にして困った顔で笑ったのだ。何度か見たことがある笑顔なはずなのに、悪魔は胸がギュッと締め付けられる感覚に襲われた。
 シスターが死んで時を巻き戻してから可笑しい。そう悪魔は今までなかった想いが溢れるのを止められなかった。温かく、心地よいもの。

 パキン、と鉱物に皹が入るような音がした。
 ふと悪魔は音のした方へと視線を向ける。左の小指に亀裂が入ったのだ。そしてその場所から風化するように、体が少しずつ崩れていく。
 悪魔は目を細め、崩れていく指先をシスターに見えないように隠した。

「ああ……。壊れてしまうのは私が先か、貴女が先か」
「何か言った?」
「いいえ。何でもありません。それより絵画の場所ですが……」
「そうよ。早く場所を教えなさい」
「愛していると言ってくださったら、教えて差し上げましょう」
「え。嫌」
「酷い。……本当に酷い人です。でも、そんな所が私は──本当に、()()()()()()」