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二〇××年十二月二十四日、志部谷
天使と悪魔の戦争が激化し、それは人間をも巻き込み地上を煉獄へと導いた。どちらも人間が引き金であり、人間がより状況を悪化。
それゆえに人は罪を犯すとその肉が腐り落ち、身も心も腐敗した存在──腐った死体となって世界に溢れ出した。
有象無象。制限なく溢れるのはそれほど人間が罪深い存在なのだろう。それを狩るのが──修道女の務めとされた。
「……って、それよりシスター」
「なによ、悪魔」
ゾンビを容赦なく制圧するシスターは、藍色の紳士服に身を包んだ悪魔に声をかける。
「ここから一駅先に波良十九というクレープが美味しい店があるらしいのですよ。ぜひ、一度食べてみたいと思いましてね」
「あー、じゃあ一人で行って来たら」
取りつく島もない。
即答され、悪魔は仰々しく項垂れる。
「いいじゃないですか~。クレープぐらい一緒に食べてくれたって」
「なんで悪魔と呑気にクレープ食べないといけないのよ。あと、たぶんアンタはクレープって、お皿で出てくると思っているでしょう?」
「ええ!? 違うのですか?」
「違うわよ。この国では巻いてあって、片手で食べるらしいわ」
「じゃあ、なおさら食べに行かなくては。これでも私、グルメなんですよ」
どこからかナプキンを取り出す。そのうちフォークとナイフも取り出しそうな勢いだった。
「……なんで今日は一人称が『私』なのよ?」
「ん~、時間を巻き戻したことによる変化? いや気分?」
「意味不明ね。まあいいわ。勝手に一人で行ってらっしゃい」
「え、ちょ──あ。貴女の探している絵画なら、録本貴に無いですよ」
「!?」
悪魔らしい囁きに、シスターの顔色が変わった。
眉を吊り上げて、睨みつける。
「……なんでアンタがそれを知っているのよ?」
「悪魔ですから」
「そう」
「ちなみに、絵画の場所を移したのも私です」
「は?」
けらけらと笑う悪魔に、シスターは銃へと手を伸ばす。
「ヒント、あげても良いですけど……」
悪魔が何を言わんとしているのか、シスターはなんとなく察した。いや、だから最初にクレープが食べたいと言い出したのだろう。
「……はあ。わかったわよ。クレープを食べに行けばいいんでしょう!」
「そうです。その通り」
悪魔はどこかホッとしたように笑った。