「頭が痛いらしい。俺たちが居たら、余計に負担を掛ける。明日は検査でさらに大変だろうから、今日はこのまま帰るのがお母さんのためだろうな」
 あああ、やっぱり毎日来なくていいっていうのは、そういうことだったのかな。
 あたし、お母さんに余計な負担を掛けてたのかも。
「あ、でも、お財布どうしよう。返したほうがいいよね」
「少し眠るって言ってたから、明日でいいんじゃないか? 落とすなよ? 預かってやろうか?」
「落とさないもん。あれからすごく気をつけてるんだから。あ、そうそう、あのね? さっき知ったんだけど、あのときお金拾ってくれた人って、実は――」
 そう言いながら、あたしがソファーから立ち上がると、次の瞬間、ドドンッっと音がして、三条くんが視界から消えた。
「うわっ」
「せぇいやくぅぅぅん!」
 おおっ、スライド小夜タックル!
 絡みついた小夜ちゃんごとゴロゴロンとタイルカーペットに転がる三条くん。
 エントランスに居た人たちが一斉にこちらを見る。
「小夜かっ? お前、駅前のスムージーはどうしたっ」
「行って来たわ! 美味しかったぁ! 聖弥くん、ありがとっ」
「日向、なんでこいつがここに居るんだ」
 えーっと。
「ちょっとぉぉ、聖弥くんっ! 聖弥くんこそ、なんでここに居るのっ? えっ? もしかして、ジャム子と一緒なのぉぉぉ?」
「大きな声を出すなっ。農園の手伝いのついでだ。いま、日向のお母さんがここに入院してるんでな」
「ジャム子のお母さんが入院? ハッ?」
 あ、また嫌な予感。
 三条くん、さっきからずっとあたしのことを『日向』って呼んでることに気がついてないみたい。