「病院って、耳鼻科だったんだね。どこか悪いの?」
「ジャム子には関係ない」
「あ、お金拾ってくれたの、小夜ちゃんだったんだね。なにかお礼させて? ほんとにありがとね」
「ジャム子には関係ない」
 だめだこりゃ。
 小夜ちゃんはときどき、こんなふうにまったく手がつけられない情緒不安定に陥る。
 どうしたらいいのかな。
 お母さんと三条くんを待たせてるのに。
 このまま、彼女を置いて戻れない。
「――ええ、もう落ち着いているんですが、ちょっと困惑しているみたいなので、電話、代わってもらえますか? 鷺田川さん? これ、お母さん。ちょっと電話代わって」
 お巡りさんがスマホを差し出す。
 すると、小夜ちゃんはバッとそれをひったくって、タタタとエントランスの端の壁まで行くと、そこでしばらく電話で話をしていた。
 お巡りさんは、さっきよりもっと苦い顔。
「キミ、大変だな。いつもあの彼女の発作に付き合わされているんだろ?」
「え? いや、あたしは……」
 発作?
「じゃ、あとは頼むね。僕らはあの電話が終わったらそのまま引き揚げるから」
 お巡りさんたちはそう言うと、壁に向かって背中を丸めている小夜ちゃんのほうへ歩いて行った。
 小夜ちゃん、なにか病気なのかな。 
「おい、日向、こんなところでなにしてんだ。警察まで来て」
 え? 
 ハッと顔を上げると、そこにはすごく心配そうな顔をした、三条くん。
「えーっと」
「お母さん、ちょっと具合が悪いみたいだ。サクランボは明日にしようってさ。今日はこのまま帰ろう」
「ええっ? お母さん、大丈夫かな」