「――いや、すまなかった。看護師さんからキミが制止してくれたことを聞いたよ。ありがとう。キミ、この前の宝満農園の子だよね? お金の封筒を落とした」
「え? あ、はい」
「キミたち、友達だったのか。それなら彼女、直接キミに言えばよかったのにな」
 直接? なんのこと?
 エントランスホールの一番端っこのソファー。
 あたしの隣には、下唇を突きだして腕組みに足組みまでしている、ふて腐れた小夜ちゃん。
 もうひとりのお巡りさんが、その小夜ちゃんに目を向けながらちょっと呆れた感じで言う。
「どうして暴れたの? キミ、あのときこの子の封筒を届けてくれた子だよね?」
 え?
 どういうこと?
 もしかして、あのお金、小夜ちゃんが交番へ届けてくれたの? 
「うるさいわね。だったらなんなのよ。もういいでしょ? 警察は帰んなさいよっ」
「分かった分かった。とにかく、もう一度同じようなことしたら、今度は警察署に来てもらうからね?」
「ふん」    
 苦笑いのお巡りさん。
 もう小夜ちゃんが落ち着いたし、特に事件でもないので、お巡りさんはすることがないらしい。
「ただ、親御さんには連絡をとらせてもらうよ? キミ、鷺田川病院の娘さんだったよね」
「はぁ? 勝手にすればいいでしょ」
 お巡りさんが、スマホでどこかへ電話をかけている。
 たぶん、小夜ちゃんのお父さんお母さんのところかな。
 あたしの隣に座っている小夜ちゃん。
 下唇を噛んで、じっとつま先を見つめている。
 なにがあったんだろう。
「ねぇ、小夜ちゃん。なにかあった? どうして診察室で暴れたの?」
「ジャム子には関係ない」