見ると、わーわー大声をあげている長い黒髪の女の子が、看護師さんに片腕を押さえられて診察室から引きずり出されている。
 げっ! 小夜ちゃんっ?
「離せーっ! アタシのパパがこの病院にどんだけ紹介状書いてやってると思ってんのよーっ! お前みたいなヤブ医者は、ここで働けないようにしてやるからなーっ!」
 うわー、関わりたくないっ! 
 でもっ、看護師さんがすごく困ってるっ。
 あたしは思わず駆け出して、小夜ちゃんのもう片方の腕を押さえた。
「ちょっとっ、小夜ちゃんっ! なにやってるのっ? 看護師さん、困ってるじゃないっ!」
「はぁぁ? ジャム子っ、こんなとこでなにしてんのよっ! こらっ、離せーーーっ!」
「とっ、とにかくちょっと落ち着いてっ!」
 うわ、すごい力っ!
 もうっ! こうなったらっ!
 あたしは小夜ちゃんの腕をむんずと掴みなおすと、それから思いきり体重を掛けてソファーのほうへ体を倒した。
「げげっ?」
 すごい顔の小夜ちゃん。
 次の瞬間、看護師さんと小夜ちゃんが、ふたり一緒にドスンとソファーに倒れ落ちた。
「痛っ! なにすんのよっ!」
「小夜ちゃんっ、落ち着いてっ? なにがあったのっ?」
「あああっ、あんたには関係ないっ!」
 逃げようとする看護師さん。
 両肩を押さえたあたしを突き飛ばして、小夜ちゃんが立ち上がりかけていた看護師さんにガバッと腕を伸ばす。
 こらっ、大人しくしなさいっ! 
 あたしはすぐに看護師さんの背中をトンと押して、それから小夜ちゃんの上に馬乗りになった。
「ちょっとっ、んぐぐっ、落ぢ着ぎなざいっ」