ハッと声のほうへ目をやると、肩を震わせながらお母さんがゆっくりとベッドから体を起こそうとしていた。
 思わず駆け寄る。
「お母さんっ!」
「日向……? 売店に行くなら、三条さんに飲み物を買ってきてくれない? お金はそこのお財布持って行って。サクランボのぶんもそれから出してね」
「ちょっと、お母さんっ、起きちゃだめっ」
 背中に手を回して支えると、お母さんが大きく息を吐いた。
 辛そうな顔。
 すごく頭が痛いらしい。
 早くなにが悪いか調べて、お薬をもらえればいいのに。
 床頭台へ手を伸ばしたお母さんを見て、三条くんもあたしの横に来て手を差し出した。
「いや、俺はなにも要りません。俺が居るせいで気を遣わせるんなら、日向だけ残して俺は先に農園へ行ってます」
 なに? ひ、ひなたって。
「あ、大丈夫よ? ごめんなさいね? そんなんじゃないの。そうね、それじゃあ、私があなたに少しお話があるってことじゃだめかしら」
 お話?
 なんだろう、お話って。
 いや、たぶんこれはとりあえず言ってるだけだ。
 そうでも言わないと、三条くんがサクランボを買いに行っちゃうもん。
 横を見上げると、三条くんもとっても真剣な顔をしてお母さんを見つめていた。
 すると、その瞳がすっとあたしに落ちる。 
「そう言われると仕方ありませんが……。日向、いいか?」
 えっ?
 えーっと、その、ひなたって……。
 なぜか、背中が固まる。
「えっと、あの……、うん。じゃぁ、あたしちょっと行ってくる」
 どどど、どうしたんだ! あたしっ。
 ゆっくりとお母さんから手を放すと、あたしはギギギと音がしそうな体を回して、ゆっくりとベッドを離れた。