うわぁ、見得を切る歌舞伎役者さんみたい。
 次の瞬間、彼女はパッと笑顔になって彼のほうを向いた。
「聖弥くぅん、一緒に帰ろうっ?」
「お前は合唱部だろ。俺は用事があるんだよ」
「アタシ、今日は病院なの。一度帰ってから行くのよ? ね、一緒に帰ろうっ?」
「そうだ、小夜。いいものがあるぞ?」
 あ、もしかして、いつも持ち歩いているという、『小夜除け』?
 三条くんが、財布の中からなにやらチケットのようなものを取り出した。
「えええ? これ、駅前のSAKURAカフェの無料券じゃないっ! しかもっ、期間限定ストロベリースムージー! アタシっ、これ気になってたのっ! 聖弥くんっ、ありがとぉぉぉっ!」
 ニヤリと笑う三条くん。
 チケットをもらってバンザイする小夜ちゃん。
 その、SAKURAカフェで使ってるイチゴ……、たぶんうちのです。
「ジャガイモっ、野球の話はまたあしたっ、悪いわねっ」
「え? いや、俺から頼んだわけじゃねぇし」
 そう言って翔太が後頭部をさすりながらヨロヨロと立ち上がったとき、もう小夜ちゃんはバッグをひったくって教室を駆け出て行ってしまっていた。
 ほんと、忙しい子。
 茫然としている翔太に、廊下から三条くんが声を掛ける。
「吉松、お前、今日から練習に戻るだろ?」 
「え? う、うん。農園のほう、あんたに頼んどくわ」
 あれから、翔太はなんかぎこちない。
 ゴールデンウィークの作業中も、ずっとこんな感じだった。
 三条くんがほんとはひとつ年上で、ひと学年先輩だって知ってしまったから、ちょっと戸惑っているみたい。