その眠気をぶっ飛ばすように、教室の前のほうでいつものアニメ声がグイグイと翔太に絡んでる。
 小夜ちゃん、ほんと声が大きいよね。
「アタシ、キャッチャーの後ろでイケたポーズする、あの役をやってみたいのよっ!」
「なんだそれ?」
 たぶんね、それ、審判のこと言ってると思う。
 そして、それがなんの役目をしている人なのか、たぶんまったく分かってないんじゃないかな。
「病院の待合室のテレビで見たのよっ! あれがやりたいのっ!」
 小夜ちゃんは、いつもこんな感じで話が噛み合わないし、ドン引きするほど面倒くさいので、クラスのみんなはあまり相手をしない。
 でも、意外にも翔太は毎回毎回、嫌々ながらもちゃんと相手をしてあげている。
 けっこういいコンビなんじゃないかな。
 でも、野菜の名前で呼ばれるのはやっぱりいただけない様子。
「おい、イチゴ」 
 あら、そういえば彼があたしを呼ぶときも野菜の名前でしたね。もう慣れましたけども。
 廊下から響いた、あたしを呼ぶ澄んだ声。
 振り向くと、彼が小さく手を挙げていた。
「もう帰るか?」
「あ、三条くん」
 うーん、あんまり小夜ちゃんの前で声を掛けないでって言ったのに。
「病院、寄るのか」
「えーっと」
 ハッとして横目で教室の前のほうを見た。
 やはり。
「ちょーっとぉ、ジャム子っ! なに、聖弥くんと馴れ馴れしく話してるのよぉ!」
 次の瞬間、ババーンと激しい音がして翔太がひっくり返った。
「うわっ!」
 おお、でたっ! 小夜タックルっ!
 転げる翔太を飛び越して、ササッとあたしと廊下の三条くんの間に駆け入る小夜ちゃん。
 両手を広げてあたしをギョロリと睨みつける。