「そりゃ心残りはあるかも知れないが、お前のために死んだんだから親父さんは本望だろうよ」
 なにを言ってるの? 三条くん。
 あたしのせいなのに、それをお父さんは喜んでいるっていうの?
 まっすぐあたしを見下ろす、彼の澄んだ瞳。
 だめ。
 もう、目の前のゆらゆらが止まらない……。
「まぁ、いまは思いきり自己嫌悪に陥ってろ。でも、がむしゃらに自分に素直に歌い続けていたら、きっといつかその嫌悪は溶けてなくなる。そして、そのお前の歌は――」
 三条くん、あたし、素直になんて歌えない。
 ごめんね? ホントにゴメン……。
「――そのお前の歌は、ちゃんと誰かを勇気づけている」
 突然、息が詰まった。
 勇気づけている?
 誰を?
 あたしがいったい、誰を勇気づけてるの?
「さぁ、あの歌、一緒に歌うぞ」
 三条くんが大きく息を吸った。
 もう一度、その胸に頬を寄せる。
「♪ いま~」
 素敵な声。
 胸の振動が頬に伝わる。
 あたしを勇気づける、この歌声。
 あたしは自分を否定した。
 そして彼は、自分を否定したあたしを否定しなかった。
 この歌声は、その否定した自分もぜんぶひっくるめて、それでいいって勇気づけてくれている。
 でもいまは一緒に歌えない。
 声が出ない。
 ごめん、三条くん。
 あたしはもっと強く、彼の胸に頬を埋めた。
 もう少し、このまま……、このままで居させて。

「は? なんで三条がここに居るんだよ」
 土間に入ってきた翔太が、作業をしている三条くんに突っ掛かった。
 外はもう夕暮れ。