それで、親戚とは疎遠になって、お父さんとお母さんはぜんぶ、自分たちだけでやらないといけなくなった。
『日向、イチゴは好きかい?』
『うんっ、だいすきっ。いっぱいたべたいっ』
 お父さんは、あたしの喜ぶ顔が見たくてイチゴ農園を始めた。
 でも、毎日毎日、すごく大変で、すぐにはお金にならなくて、お父さんは夜に別のアルバイトもしていたらしい。
 そして、あの事故は起こった。
 居眠り運転だったって。
 イチゴ農園を始めなければ、お父さんは死ななかった。
 あたしがイチゴが好きだって言わなければ、あたしがイチゴの日に生まれなければ、お父さんはイチゴ農園を始めなかった。
 ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのせいだ。
 このことは、お父さんが亡くなってから、お母さんから聞いた。
 あたしのせいだって言ったら、お母さんはそれは違うって言って、少し怒った。
 お父さんの夢。
『いつか、日向の名前がついた新しいイチゴを作りたい』
 お父さんは、そのためにたくさん働いて、たくさん勉強しないとって、毎日、口癖のように言っていたって。
 その、お父さんの夢を消してしまいたくない、途絶えさせたくないって言って、お母さんはひとりでイチゴ農園を続ける決心をした。
 だからあたしは、この子たちが嫌い。
 自分のことも、大嫌い。
 この世界で、あたしのことを一番嫌いなのは、たぶんあたし。
「よし、歌うぞ」
 ハッとして、無意識に彼の胸に埋めていた顔を離した。
 すぐ目の前にある、三条くんの真剣な顔。
「お前のせいで親父さんが死んだっていうんなら、それは親父さんがお前のためを思って一生懸命頑張ったことで死んだってことだろ」
「え?」