確か、なん台かあったはず。
 えっと、納屋の一番手前に……、あった。
 ぜんぶで三台。ちゃんとビニールひもで印をつけてある。
 お母さん、なんでもきちんきちんとしてるな。すごい。
 ハウスの手前のホースも、どこか一か所、ちっちゃな穴が開いてるって翔太が言ってたよね。
 テープで応急処置しといたって。
 今週は、この列のハウス。
 うわ、ちょっと暑い。
 屋根ビニールの裾を少し上げといたほうがいいかも。
 キレイな色のイチゴたち。
 有名な銘柄じゃないけど、あたしたち一家の愛情がいっぱい詰まってる。
 そうね。
 『ガオカ』の子たちがひと粒いくらで売られる有名銘柄のイチゴだとしたら、この子たちはあたしたちと同じ、平凡でどこにでも居る普通の子。
 でも、普通だからこそ、素直で正直で素朴な子で居られる。
 摘み取るときの手のひらに転ぶ感触は、とても楽し気でわくわくしている感じ。
 でも、あたしはこの子たちが……、この子たちが……。
 本当は、大嫌い。
 だめだ。
 また涙が。
 この子たちが居なければ、お父さんは死ななかったのに。
 この子たちが居なければ、お母さんは倒れなかったのに。
 どうしてあたしは、この子たちをここへ呼んでしまったんだろう。
 ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのせいだ。
 あたしが生まれてこなければ――。
「おい、イチゴ」
 突然、後ろから響いた透き通った声。
 驚いて振り向く。
「さ、三条くんっ?」
 ハウスの入口。
 そこに居たのは、制服姿の彼。
 いま、この世で一番この顔を見られたくない、彼。
「泣いてるのか」
「泣いてないもん」
「お前、我慢してるだろ」
「我慢してないもん」