「お隣さんだからねぇ。たまに彼の部屋にお邪魔して、いろいろ話してるんだよ。お母さんが居ないと、出荷がもっと大変になるね。俺、来週になったら手伝えるから」
 去年、山家さんはお父さんが亡くなったその晩から、最盛期が終わるまでずっと手伝いをしてくれた。
 でも、また今年も同じように迷惑を掛けるわけにはいかない。
「ありがと。今年も翔太と翔太のお父さんが夕方から来てくれてるから、たぶんなんとか大丈夫。あたしは当分、学校お休みだけどね」
「そうかー。あんまりムリしちゃダメだよ?」
「うんっ」
 笑顔だ。
 笑顔でいよう。
 お母さんのこと心配だけど、あたしが元気を失くしたら弟たちもふさいじゃうし、みんなに心配を掛けちゃう。
 山家さんが部屋へ引っ込んだあと、チラリと隣の三条くんの部屋を見た。
 カーテンが閉まっている。
 もう、学校へ行っている時間。
 正直、昨日は三条くんのおかげで正気で居られた。
 彼が居てくれたから、弟たちの心配をしないで病院に駆けつけることができた。
 また今度、なにかお礼をしないと。
 お母さん、検査はゴールデンウィーク明けって言ってたな。
 なにか、大変な病気だったらどうしよう。
 ううん、きっと大丈夫だもん。
 毎日来なくていいってお母さんは言ってたけど、やっぱり心配。
 今日はお昼から行こう。
 午前中のうちに、ある程度、今日のぶんの収穫をやっとかなきゃ。
 あれ? 作業用のオーバーオール、膝のとこがちょっと破けてる。
 いつから破れてたんだろう。
 三条くんにも見られたかな。
 今夜、縫って直しておこう。
 直すといえば、壊れた燻蒸器の修理、いつ持って行くって言ってたっけ。