『イチゴ、安心しろ。母ちゃんは命に別状はないらしい。いまから吉松の親父が迎えに来る。弟たちは俺がみといてやるから、お前は病院へ行ってこい』
 怖かった。
 また病院へ行って、お母さんの顔に白い布が掛けられていたらどうしようって、それが頭の中をぐるぐる回って肩が震えた。
 三条くんがあたしの頭にそっと手を乗せて、『大丈夫だ』って言ってくれた。
 お母さんはたぶん、お父さんが亡くなってからずっと今日まで、ぎりぎりいっぱいで頑張って来たんだと思う。
 顔には出さないで、あたしたちのためにいつも笑顔で居てくれたお母さん。
 あたしは、なんにもできない。
 お母さんが少しでも楽になるようにって、ほんの少しお手伝いをすることでしか役に立てない。
 病室のお母さんは、何度も『ごめんね。ごめんね』って言って、あたしの手を握った。
 でも、これもぜんぶあたしのせいだ。
 あたしが生まれてこなかったらお父さんは死ななかったし、お母さんもこんなに辛い思いをしなくて済んだ。
 ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのせい。

『――もしもし? あ、先生、ごめんなさい。宝満です。昨日、お母さんが入院しちゃって、農園のお仕事とかあって、今日、どうしても学校に行けなくって――』
 仕方なく、今日は学校を休んだ。
 入院中のお母さんのお世話と、イチゴの収穫。お昼の間に、摘めるだけ摘んどかないと。
 そのほかにも、やることはいっぱいある。
 ちょうど明日からはゴールデンウィーク。 
 その期間中はずっと、隣町で行われる二町合同直売イベントに参加して、摘みたてイチゴをたくさん販売する予定だった。
 お母さん、楽しみにしてたのにな。