お母さんは先に着いていたみたいだけど、すぐには会えなかった。警察の人と話をしていたみたい。
 翔太のお父さんが来て、あたしだけ呼ばれた。
 通されたのは、救急処置室の隣の部屋。
 もう、お父さんの顔には白い布が掛けられていた。
 なにがなんだか、意味が分からなかった。
 交通事故だったそうだ。
 お母さんも、翔太のお父さんも、誰もあたしには事故のことを話さなかったけど、あとでSNSのニュースで、前の方がめちゃめちゃに壊れているお父さんの車の映像を観た。
 イチゴの出荷で一番忙しかった時期。
 あたしも、弟たちもみんなでお手伝いしていたけど、特にお父さんは、取引先の工場や洋菓子店さんとを行ったり来たりしていたので、すごくきつかったと思う。
『不幸中の幸いは、誰もほかの人を巻き添えにしなかったことですね』
 警察の人が言ったそのひと言は、まったく理解できなかった。
 お父さんは死んだのに。
 幸い?
 なんなのそれ。
 お父さんは死んでしまったのに、死んだのはお父さんだけだったことが、幸い?
 お父さんは、死ぬほどイチゴを愛していた。
 でも、ほんとに死んじゃったら意味がない。
 お父さんが居なくなっても、イチゴの出荷は止められない。
 あたしはそれまでと同じように、『イチゴの最盛期の間だけ』って言って、合唱部を休部した。
 イチゴ農園はやっと軌道に乗り始めたところ。
 来年からはイチゴ狩りも始めようって言って、お父さんがお金を借りたばかりだった。
 結局、合唱部はそのまま退部した。