ついつい、無意識に喜んでしまった。
 ダメだ。口元が緩んでしまう。
 ググッと奥歯を噛んで土間のほうへ顔を向けると、すごい呆れ顔の晃と目が合った。
 慌てて反対を向くと、ニコニコ顔の陽介が、マンガみたいに口の周りにカレーをつけたまま、ちょっと身を乗り出して三条くんを覗き見上げた。
「ねぇ、セイヤ兄ちゃんのなりたいものってなに? ピアノのせんせいじゃないの?」
 どうも、さっきの話の続きみたい。
「ん? ピアノの先生にはならないな。うーん、ちょっと説明が難しい……。陽介、お前は大きくなったらなんになりたいんだ?」
「ぼく? ぼくは、おかあさんのおてつだいっ。いっしょにイチゴをつくるのっ」
 へぇ、という顔をした三条くん。
 すかさず光輝も参戦。
「こうきはぁ、おねえたんのおてつだいっ」
 うわ、光輝はあたしのお手伝いなのね。
 お姉ちゃん、嬉しいよぉ。
『子は親の道具じゃない』
 三条くんのあの言葉。
 どんな家庭なのか知らないけど、もしかしたら三条くんって、お父さんお母さんから道具のように扱われて、仕事の手伝いをさせられていたの?
 さらに、へぇという顔をした三条くんが、正面に座っている晃に瞳を向ける。
「お前はなんになりたい? お前の夢はなんだ」
「あ?」
 すごいしかめっ面の晃。
 うわ、まだケンカ腰なのね。
「俺は……」
 そういえば、晃の夢なんて聞いたことないな。
 小学校では野球をやっていた。
 お父さんとよくキャッチボールしてたっけ。
 中学でも続けるんだろうって思っていたのに、いまのところなんの部活にも入らないで、まっすぐ帰って来て農園の手伝いをしてくれている。