彼はあんな感じだけどお部屋はかなり片付いてたし、たぶんけっこう几帳面な性格なんだと思う。
 お料理、いつもどおりに作っているけど、雑な女の子に見られないかな。
 そんなことを考えながら、揚がった唐揚げをテーブルに移動して鍋の火を止めると、突然、居間のほうからピアノの音が聞こえ始めた。
 縁側に置いてあるアップライトピアノ。
 あたしが保育園のとき、まだ元気だったお婆ちゃんがあたしのために買ってくれた。
 小学校四年生までは習ってたんだけどね。
 合唱を始めてからは、ずっとお休みしてるの。
 辞めたんじゃないよ? お休み中。
 だから、あのアップライトピアノはもう何年もフタを開けられないまま、ずっと縁側の端で寂しそうにしていた。
 久しぶりに音を聞いたな。三条くんが弾いてるのね。
 この曲は知ってる。
 最後の発表会で弾いた、『糸つむぎの歌』。
 くるくると糸巻きを回すような旋律がとっても楽しくて、何度も何度も弾いたっけ。
 三条くんが弾いているところ、また見てみたい。
 いや、ちょっとだけよ? ちょっとだけ。
 そうして、居間から聞こえるピアノの音が気になって目を向けていると、突然、晃が台所へ入って来た。
 うわっ、なによっ。
 思いきりバチンと目が合う。
「なんだよ、姉ちゃん。そんなに彼氏が気になるのか?」
「彼氏じゃないもん」
「姉ちゃん、まぁ、いけすかねぇが、あいつはそれなりにすげぇやつみたいだな」
「は?」
 腕組みをして、台所へ入って来た晃。眉の間にこれでもかとシワを寄せている。
 なんなのよ。