お母さん、さっきの電話ではもう帰るって言ってたのに、まだ帰り着かないのかな。
 さて、三条くんをサッともてなして、あとはまたお母さんのお手伝いしなきゃ。
 まぁ、朝、お家を出る前に野菜は切っておいたし、唐揚げもタレに漬け込んでおいたから、もうあとは簡単。
 今夜はスーパーに出すジャムも作らないと。
 そういえば、最近はあの空瓶に入ったメッセージは届いてない。
 もう、あたしのジャムに飽きちゃったかな……。
 土間のほうで、晃が三条くんを呼ぶ声が聞こえた。
「兄さん、あがりなよ。俺は中一の晃、こいつは小三の陽介、こっちは年長の光輝」
「こんにちはぁ。うわー、せがたかーい」
「ねぇ、えほんよめる?」
「おう、お邪魔するぜ。俺は三条聖弥だ。よろしくな」
 どうも、男の子の関係って、よく分からない。
 いがみ合ってるように見えるのに、ほんとは心の中では信頼し合ってたりするし。
 女の子って一度関係がこじれると、もうなかなか戻らないもん。
 だから、嫌いでも苦手でもちょうどいい距離感で居られるように、女の子はいつも気を遣ってる。
 それからすると、小夜ちゃんは実に分かりやすい。
 めちゃくちゃだけど、それはたぶんまっすぐな気持ちをぶつけてるからで、あたしも嫌われてる感じはしないし……。
 ふつふつと煮えたお鍋にカレールーを溶かして、同時進行で唐揚げを揚げ始めると、ふと、制服の上に着けたエプロンがずいぶん汚れていることに気がついた。
 うわ、こんなに汚れてたっけ。
 あー、こりゃ三条くんには見せられないな。
 まぁ、もともとけっこうズボラな性格ではあるけど、清潔感がないようには思われたくない。