「――姉ちゃん、ちょっといいか」
 ゴゴゴと炎が背中で燃えている晃。
 さすがに、この三条くんのデリカシーのない冗談は、初対面の晃には通じない。
「晃……、あのね?」
 見ると、ググッと肩をいからせた晃が、これでもかとあたしを睨みつけていた。
 思わず三条くんにも目をやる。
 するとこちらは、ふんっという感じで、「行ってこい」とアゴをしゃくっている。
 なんなのよ。
 バッと回れ右した晃。
 あたしは、三条くんに「ごめん、ちょっと待ってて」と口だけ動かして、晃の背中を追った。
 土間の奥の台所。
 ちゃっちゃっとローファーを脱いで板張りへ上がると、土間からは見えない冷蔵庫の横で晃が待っていた。
 あたしより頭ひとつ高い晃が、スッとあたしの両肩に手を置く。
「姉ちゃん……、正直に聞かせてくれ」
「な……、なによ」
「姉ちゃんは、あんなのが好きなのか?」
「え? いや、そういうんじゃないもん。ほんとに違うの」
「いや、メシ食わすだけと言っても、姉ちゃんが男を家へ誘うなんてこと自体がありえねぇことだろ」
「あー」
 まぁね。
 いままでそういう話と無縁だったから、そりゃビックリするよね。
「でも、ほんとお詫びとお礼なの。すっごく迷惑掛けたから。ほんとはあたしもあんまり気が合う人じゃないんだけど、これはどうしても必要なことだから、ね? 分かって?」 
「へぇー、そうか。ふん。あいつが姉ちゃんにふさわしい男かどうか、ちゃんと俺が見極めてやるよ。おーい、陽介ぇー、光輝ぃー、出てこぉーい」
 いや、だから違うって。
 なんでそんなに不機嫌なの?
 お姉ちゃんは誰のものにもならないから安心して。