「立て替えてくれてありがとっ。それとっ、お父さんにもお礼を言っといてっ」
「え? ああ」
 三条くんは、ちょっと複雑な表情。
 もしかして、あんまりお父さんと話したくなかったのかも。
「あああ、あのっ、バッグ投げつけてしまったこと、なんでお父さん知ってたの? 三条くん、親には話すなって……」
「あ?」
 やばいっ。
 余計なことを口走ってしまった!
 うわぁ、怖いよぅ。
「ふん。あの日、保健室を出たあとすぐ、親父に電話したんだ。母親に知れる前に、俺から聞いたからもう連絡は要らないと学校に言ってくれって」
 あー……、そういうこと。
 仲がいいってわけじゃなさそうだけど、一応、お父さんは三条くんの味方ってことなんだね。
 でも、そんなにお母さんに知られたくないなんて、三条くんのお母さんっていったいどんな人なんだろう。
「あ、えっと、そうなんだ。それで、お父さんがあたしのこと知ってたのね。と、とにかく、今日はホントにありがと」
「まぁ、小夜の代わりに掃除することになった埋め合わせだ。それと、こんな大金、学校に持って来るんじゃない」
 いやいやいや、それよりもっと大きい額のお金をあなたは持って来ているじゃあーりませんか。そっくりそのままお返しします。
「う、うん。今後は気をつけるね。でも、どうして三条くんはそんなお金を持ってたの?」
「あ? これは独り暮らしの生活費だ。メシ代とか、そのほかもろもろ」
「生活費? そういえば、なんであのアパートで独り暮らししてるの? お家は近いんでしょ?」
「親父の勧めでな。まぁ、実のところ体よく追い出されたって感じだ。俺が居ないほうが、母親が穏やかに暮らせるんでな」