ちっちゃなイチゴの恋はソプラノ

「ご苦労さま。はい、これ領収書ね。間違いなくお母さんに渡してね」
「あああ、ありがとうございます」
 箱屋さんを出ると、三条くんが怖い顔をして外で待っていた。
 倉庫の壁に寄り掛かって、ものすごく不機嫌そう。
 結局、彼に甘えてしまった。
 早く家に帰って、とりあえずお年玉で三条くんにお金を返そう。
 でも、いったいどこで落としたんだろう。
「おい」
「はっ、はいっ!」
「とりあえず、これ飲め」
 え?
 三条くんが突然差し出したのは、ペットボトルの紅茶。
「あのう、でも」
「いいから飲め」
 ううう、怖いよぅ。
 思わず受け取る。
「いいか? 今朝からのこと、ちゃんと落ち着いて思い出せ。俺が立て替えた金なんて、返すのはいつでもいい」
 見上げると、彼がまたあの怖い目でジロリとあたしを見下ろしている。
 なんか、先生に叱られてるみたい。
 ペットボトルのキャップを開けて、目をつむってゴクリと紅茶を喉に流し込んだ。
 ふわりと広がる優しい香り。
 紅茶の香りには、心を落ち着ける効果があるんだって。
 もうひと口。
 ちょっとだけ、気持ちが楽になった。
 それからゆっくりとふたり並んで歩き出すと、しばらくして三条くんが顔も見ないであたしを呼んだ。
「おい、イチゴ」
 ああ、もうその呼び名に決定なのね。まぁ、『ジャム子』よりはましかな。
「しかし、なんでお前が支払いに行くことになったんだ? 家の手伝いって、そんなことまでやらされるのか」
「あの、やらされるっていうか……、えーっと、ゴールデンウイークに隣町で直売イベントが予定されてて、お母さん、その準備で今日一日ずっと忙しいから、あたしが代わりに……」