「えっと……、なんでもない」
「いや、お前、嘘が下手すぎだろ」
 そりゃー、嘘の笑顔がとってもお上手なあなたに比べれば……、いやいやいや、そんなことどうでもいい。
 なに?
 どういうこと?
 今朝、間違いなくこのポケットに封筒を入れたはずなのに。
 えええ? どっ、どこで落としたんだろうっ。
「そそそ、そのっ、三条くんっ、にはっ、関係っ、なっ、いもん」
「カタコトになってんぞ。お前、なんか失くしたんだな?」
 バッと立ち上がる。
 こうしちゃいられないっ。
「ごめんっ。カギ、返しに行ってくれる? あたしちょっと用事がっ――」
「待て」
 グイッと引かれた手。
「正直に言え」
 うわぁ、怖いよぅ。
 そんなに顔近づけないで。
 頭ふたつ高いところから、三条くんが鬼の顔で見下ろしている。
「えええ、えーっと、今日はっ、その、イチゴの箱の業者さんに、だっ、代金を支払いに行かないといけなくてっ――」
「まさか、その金を失くしたのか。いくらだ?」
「いや、お家に置き忘れてきたのかもしれないしっ。とりあえず、いったんお家へ戻って――」
「いくらだっ?」
 ぴえぇぇん。
 なんでそんなに怒ってるのっ?
「その……、に、二万……五〇〇〇円」
 一瞬きょとんとして、それから、はぁーっ……と、深い深いため息をついた三条くん。
 いや、ほんとにもう急ぐんで。
「あああ、あのっ、カギっ、よろしくねっ! ごめんっ」
 とりあえず、お家に帰れば、辞書に挟んだお年玉がある。
 いまならまだ、箱屋さんの営業時間中に間に合うはずだ。
 仕方ないっ、捜すのはそのあとっ。
 うわっ。
 またもや、グイッと手が引かれた。