そんな怖い顔しているのに、怒ってないの?
「あはは、それでいいわ。こんなことでちっちゃな女の子相手に怒りまくってたら、それこそ男としての器を疑うわ」
 先生、もう一度言いますが、あたしは今年度で十六歳になる高校一年生です。
「あ、そうそう、あんたたちふたりとも、このことは必ず保護者に話しておくのよ? 学校からも連絡するから」
 そう言って先生がクリアファイルでパタパタと顔をあおぎながらニコリとすると、なぜかずっと窓のほうを向いていた彼が、ゆっくりとこちらを振り返った。
 その鋭い視線が先生に向く。
「俺は親には言わない。学校からの連絡もやめてくれ」
 きょとんとした先生。
 そして、彼が立ち上がりながら頬から離したハンカチタオルを先生へと突き出すと、今度は先生の顔がみるみるうちに絵本の赤鬼みたいになった。
 うわぁ、怖いぃ。
「はぁ? 『やめてください』でしょ? あんた、敬語もできないの? これは大人の事情も絡むんだから、絶対に言わないとダメ。学校からも絶対連絡するから」
 彼はまっすぐ下ろした両手をグッと握って、それから先生を見下ろしていた目をゆっくりとあたしへ向けた。
 またドキッとする。
「お前も言うな」
 乱暴な言葉とは全然違うキレイな瞳。
 なぜかちょっと息が詰まって、あたしは思わず下を向いた。
 床だけだった視界にすっと彼の足が見えて、あたしは慌てて一歩後ろへ下がる。
 顔が上げられない。
「あああ、あの、あたしのお母さんは、絶対、三条くんのお父さんお母さんに謝らないとって言うと思う。だだだ、だから――」
「俺の親に関わるな。ろくなことにならない」