痛ぁぁーーいっ!
 顔を引っ込めた瞬間、ドア枠に思いきりぶつかった頬。
 思わず両手で頬を押さえてしゃがみ込む。
 ううう……。
 そして、じわっと目を開けると……。
「お前。こんなとこでなにしてんだ」
 うわ、出た。
 子供に話し掛けるみたいに、膝をついてあたしの顔を覗き込んでいる三条くん。
 ズバッと立ち上がる。
「あああ、あたしはっ、そのっ、小夜ちゃんの代わりに掃除当番をっ」
「え? お前が代わりに来たのか……。あー」
 なに?
 どういうこと?
「そりゃすまなかったな。小夜に用事を作らせたのは……、俺だ」
「はぁ?」

「こんなもんでいいか。けっこう砂が上がるんだな。渡り廊下のせいか」
 小夜ちゃんが言った『もうひとりの委員』は、三条くんだった。
 四組の音楽委員だって。
 小夜ちゃんは、一緒に掃除する当番が三条くんだって知らなかったみたい。
 彼の話によると、小夜ちゃんの用事はネイルサロン。
 今日の三組の当番が小夜ちゃんだという情報を入手した三条くんが、彼女に駅前のネイルサロンの無料お試し券をあげたんだとか。
 なんでそんなもの持ってるのよ。
「小夜()けのために、いつもそのテのやつをいくつか持ち歩いてるんだ。あいつ、一緒にお茶行こうとか言ってしつこいし」
 なるほど。
 どうも、そのネイルサロンは三条くんのお父さんの友だちのお店らしい。
「先に出て。あたし、音楽室のカギ、職員室に返してくる。三条くん、先に帰っていいよ」
 ピアノの上のカギに目をやりながら、「さぁ、行って行って」と三条くんに手を振ると、彼はバッグのストラップに手を伸ばしたところで、突然動きを止めた。
 え? なに?