「アタシを差し置いて聖弥くんと歌の話をした罰よっ! 思い知りなさいっ!」
 はいはい。思い知らせていただきます。
「もうっ、悔しいっ! 聖弥くん、アタシが一緒に合唱やろうって誘ったらソッコーで断ったのに、あんたとは一緒に歌いたいだなんてぇっ!」
「あー、ところで小夜ちゃん。あたし今日、用事があるの。音楽室の掃除はできないなぁ」
「はぁ? そんなの認めないわっ! アタシも用事ができたのよっ。あんたの用事より、アタシの用事のほうが重要であることは間違いないわっ!」
 そうですよね。
 小夜ちゃんの用事のほうが重要に決まってます。はい。
 ガタガタと椅子を鳴らしてみんなが教室を出て行く中、小夜ちゃんがあたしの前に立ち塞がってアゴをしゃくっている。
 こういう感じになったときは、もうどう言っても彼女は引き下がらない。はいはいと言うことをきいてあげたほうが、ムダな時間を取られなくて済む。
 まぁ、でも代わりを頼むということは、一応、掃除に対して責任は感じているっていうことよね。
 サボってしまおうってならないところが、小夜ちゃんらしい。
「分かった。仕方ないな。あたしが代わりに行ってあげる」
「当然よっ! もうひとり、ほかのクラスの委員が来るから、力を合わせてやりなさいっ!」
 ぷいっと背中を向けて歩き出す小夜ちゃん。
 あー、箱屋さんが営業しているうちに支払いに行けるかなぁ。
 しかーし。
 ふふふ。
 こんなこともあろうかと、今日、箱屋さんへ支払うお金は、あらかじめ持って来たのです。
 これは、お母さんにはナイショ。