どうも、入学前に三条くんのお母さんが学校へ来てちょっとトラブルがあったらしくて、それでみんな知ってるんだって。
 どんなトラブルだったのかは、詳しく教えてくれなかったけど。
「イチゴの旬って、どんなことしてんの?」
「あー、とにかく摘んで詰めて、摘んで詰めて、です。お昼はお母さんがひとりで摘み取りやってるんで、あたしは帰ってから箱詰めのお手伝い。それと、夕ご飯の用意とお洗濯!」
「うわぁ、大変。夜遅くまでやるの?」
「はい。でも、いまの時期だけなんで。これを乗り切っちゃえば、あとは冬になるまでは子苗作りだけでイチゴはお休みだし」
「ふぅん。あんまし無理しないようにね」
 あたしは大丈夫。
 無理をしているのは、お母さん。
 この一年、お父さんのぶんまで頑張って、たぶんもうクタクタになっているはず。
 あたしは、お手伝いをすることしかできない。
 本当なら高校も辞めて、ずっとお母さんのお手伝いをやりたいんだけど。
 今日は、ちょっと重要なお手伝いを任せてもらった。
 帰りに農協の裏の箱屋さんへ行って、追加でお願いしたイチゴの箱の代金を支払うという重要な任務。
 それが終われば、早くお家へ帰って夕ご飯の支度をしないと。
 あたし、ちょっとはお母さんの役に立ててるかなぁ。

「ジャム子っ、あんたいまから、アタシの代わりに音楽室の掃除に行くのよっ」
「……はい?」
 今日は特別教室の清掃日。
 週に二回、図書室や音楽室などの特別教室を、放課後にそれぞれの委員が清掃することになっている。
 小夜ちゃんは、音楽委員。
 あたしは農園の手伝いがあるので、先生が委員から外してくれた。