みんなが立ち上がって、音楽室がさっきの静けさからは想像もできないほどのガヤガヤでいっぱいになった。
 数人の女子がわーって言って、三条くんに駆け寄っている。
 ちょっと迷惑そうな顔の彼。
 スカートの上から、両足をさする。
 小夜ちゃんが段を上がってこちらへやって来た。
「ちょっと、ジャム子ぉ。元合唱部が本気で歌ったらダメじゃない。みんなヒクでしょぉ」
「え? あたし、そんな本気だったかな。あはは」
「だいたい、あんな歌い方、合唱部のときにしたことなかったじゃないっ。あんた、手を抜いていたわねっ?」 
 ええ? なんでそうなるの?
 手を抜いていたつもりはないけど。
 自分の本当の音域と違うパートで歌ってただけ。
 机に両手をついて思いきり顔を近づけた小夜ちゃんが、もっと迫りながらギャーギャー言い始めると、その肩に突然、軽く手が掛かった。
「小夜、うるさいぞ?」
「ええっ?」
 ビックリした小夜ちゃん。
 彼女を押しのけて、あたしの顔を覗き込んだのは……。
「おい、イチゴ」
 すっごく怖い顔の……、三条くん。
 思わず背筋を伸ばす。
「いいい、イチゴって、あたしのことっ? あのっ、け、今朝はごめんなさいっ!」
 のけ反ると、彼の顔がもっと近づく。
「お前……、夢がないのか」
「え?」
 真剣な顔。
 思わず目を逸らす。
「夢は……、その……」
「夢がないんなら、お前、俺の夢を手伝え」
「へっ?」
 彼の後ろで、小夜ちゃんがなにやらギャーギャーと騒いでいる。
 そのさらに後ろには、たぶん彼のファンだと思われる女の子たちが数人。
 あたしは、ググッとのけ反ったまま。
 彼の口元がほんの少し上がる。