「あれ、もしかして、『UTA☆キッズ』に出てたセイヤじゃね?」
「女子が隣のクラスに居るって言ってた」
「ひえぇ、ムカつくイケメン」
 そのあと、雨が降り出したみたいにザワザワーッと広がったどよめき。
 先生が立ち上がって、パンパンと手を鳴らす。
「はいはい、彼は確かに以前はテレビに出ていた有名人かもしれないが、ここではみんなと同じ、ひとりの生徒だ。変に意識しないで。さぁ、三人とも、校歌斉唱、いいかな?」
 先生のひと声に、急に音楽室中がしゅーんとなった。
 先生、とっても素敵。
 また、ババーンとピアノが鳴って、壇上の三人が校歌を歌い始める。
「♪ あさゆうあおぐ、おおみねの~」
 え? 
 ちょっと、どうしたの?
 ほかのふたりの声がまったく聞こえない。
 甘い声。
 素敵な、とっても素敵な、透き通った歌声。
 これが、三条くんの声……。
 重たいバリトンでも、艶やかなテノールでもない。
 もっと中性的な、テノールとアルトの中間のような、そんな澄んだまっすぐな声。
 気がつくと、あたしは目をつむっていた。
 すーっと、心が洗われていくみたい。
 まるであのとき、教会で聖歌隊の歌声を聴いたときみたいに……。
 バーンとピアノの余韻が響いて、歌が終わる。
 ハッとした。
 彼の歌声にうっとりとしていた自分に気がついて、思わず下を向いた。
 顔が熱い。
 三条くんたちが席へ戻る。
 「はい。ありがとう。これで全員終わりかな? では、今日の授業はここまで」
 どうしてだろう。
 足に力が入らない。
 テーブルにぶつけた傷のせいかな。