中学に入ったとき、野球部に入るのはやめてあたしと一緒に合唱やろうかって真剣に考えたみたいだけど、翔太のお父さんから、「お前が人前で歌うというのなら、俺はお前と親子の縁を切る」とまで言われたみたい。
「はい、ありがとうね。では、次の三人、前に出て」
 あ、次はあたしの順番。
 前の席のふたりと一緒に段を下りる。
 ひょこひょこと右足を引きずって歩くのが、かなり恥ずかしい。
 ああ、やっぱり三人の中であたしが一番ちっちゃいな。
 教壇から見渡す音楽室。
 目の前に広がる階段状の席。
 なんだか、コンサートホールのステージに立っているみたいで素敵。
 ふたりが自己紹介して、ついにあたしの番。
「ほ、宝満日向です。南中学校でした。夢は……」
 前のふたりが言った夢は、「パテシエになりたい」と、「看護師になりたい」。
「あたしは……、特にありません」
 あたしの夢は、宝満農園だけの特別なイチゴを作って、いつかお母さんを楽にしてあげること。
 でも、ここではその夢は話せない。
 ここには宝満農園をあまり良く思ってない、『ガオカ』の子が何人かいる。
「うん? そうか。じゃ、次は校歌斉唱ね」
 あたしがピーンとキヲツケすると、ほかのふたりもちょっとだけ背筋を伸ばした。
 ババーンとピアノの音が鳴る。
 先生、ピアノ上手。
 ピアノが弾ける男性って、なんかすごく魅力的だよね。
「♪ あさゆうあおぐ、おおみねの~」
 ちょっと背伸びをしながら、思いきり声を出す。
 合唱部ではずっとアルトだったけど、あたしの本当の音域はソプラノ。
 お腹の底から声が湧き上がって来て、すごく気持ちいい。
「♪ ゆうしにたかきこころざし~」