それからものの数秒、なにも言えずに三条くんの首にギュッとしがみついていると、彼がちょっと立ち止まって、腰を落としてよいしょっとあたしをしょい直した。
 そのときだ。
 あ……、これはちょっとマズい展開。
 三条くんの頭越し、歩道のずっと向こうに見えたのは、見覚えのある特徴的な坊主頭。
 うわ、なんでこのタイミングでっ。
「あ……、やばい。三条くん、ちょっと戻って?」
「は? なんでだ」
「え? なんでって、翔太が――」
 不思議そうに三条くんがこちらへ顔を向けたとき、もうその向こうには、息を切らせながら走って来るあの坊主頭が……。
 思わず声を上げた。
「おおお、おはようっ、翔太っ。あ、朝からランニング、偉いねっ!」
「おうっ、おはよ……って、え? ええっ?」
 三条くんの背中から斜めに顔を出したあたしを見て、ジャージ姿の翔太がギョッとして足を止めた。
「日向? え? コイツはこの前、女に囲まれていた……、ままま、まさかお前ら、イイ感じになったのかっ?」
「なによ、イイ感じってっ! そんなんじゃないっ!」
「それにお前、ケガしてんじゃねぇか! おいっ! 日向になにしやがったんだっ!」
 首に掛けたタオルの両端を引っ張って、大股で三条くんに喰って掛かる翔太。
 三条くんの肩がぎゅっと上がる。
「あ? 俺がなにしたって?」
 どどど、どうしてそうなるのっ?
 ちょっと待ってっ! 
「あのっ、翔太っ、これにはわけがあって――」 
「ごらぁぁーーっ! 日向をよこせぇぇ!」

「だからぁ、わけは話したでしょー?」
「いや、おかしいだろ。ニワトリを追ってよそ様の部屋に窓から入り込むバカがどこに居るんだよ」