ギューッと目をつむって体を縮こまらせると、食いしばった歯が小さくカタカタと鳴った。
 一瞬の沈黙。
 ん……?
 なんだか、いいにおい。
 あたしはすーっと息を吸って、それからじわりじわりと目を開いた。
 ゆっくりと顔を上げると、なんとそこに居たのは……。
「うわ、お前、なにしてんだ」
 ななな、なにっ?
 どうして彼がここにっ?
 のけ反って顔を離すと、そこには目を丸くしてポカンと口を開けている、三条聖弥くん。
「さささ、三条くんっ? どうしてここに居るのっ?」
「いや、それはこっちのセリフだろ」
 少し目が慣れた。
 見回すと、ここは畳のお部屋。
 部屋の真ん中ではガラステーブルが派手にひっくり返っていて、そのすぐそばには、畳に転がった空のマグカップ。
 なぜか、あたしが居るのは畳の上に置かれたふかふかのベッドの上で、さらになぜか、品《ひん》のいい紺色のパジャマを着た三条くんにしっかりとしがみついてて。
 意味が分からない。
 すぐ近くに三条くんのキレイな瞳。
「えっと、えっと、えっと……」  
 このシュールな状況を把握しようと頭をフル回転させていると、なにやらモゾモゾとあたしの背中を異様な感触が這い上がった。
 次の瞬間、どさりとあたしと三条くんの間に毛の塊が落ちる。
「ベートーベン!」
「うぎゃぁぁぁぁ!」