「あはは。無理なんてしてないもん。お仕事頑張ってね」
 グビッと残りのビールを飲んだ山家さんは、いつものようにニコニコ顔で軽く手を上げて、それからピョンとお部屋の中に引っ込んだ。
 窓は開いたまま。
 いつも開いたままだから、たぶん朝のニワトリの鳴き声がかなりうるさいんじゃないかな。
「あ、今日も点いてる」
 山家さんが引っ込んだ、左側の窓。
 アパートの二階には、その右にもうひとつ窓がある。
 一階は納屋になっていて、お部屋があるのは二階だけ。
 確か、右の部屋はずっと前から空き部屋だったはず。
 なのに、最近、その右側の部屋にときどき灯りが点いていることに気がついた。
 窓のカーテンは空き部屋のときもずっと掛けられたままだったから、新しく誰かが引っ越してきたなんてまったく気がつかなかったな。
 それにしても、もしなにも知らずにあの部屋を借りたのなら、ちょっと申し訳ない。
 朝になると、それはそれは度肝を抜かれる……、あの声が高らかに響き渡るから。
「姉ちゃん、ご飯よそったぞー。まだー?」
「お姉ちゃぁん、ごはんたべよー」
「おねぇたん、ごはんー」
 うおー、可愛い弟たちよ。
 いただきますを待ってくれているのね。
 こんな可愛い弟たちも、ビニールハウスの中で汗だくになって一生懸命に手伝ってくれる。
 あたしも頑張らなきゃ。
「はぁい。お待たせぇ。よいしょっ」
「よし、俺が運んでやる」
「あー、兄ちゃん、ぼくもぉ」
「いっしょにはこぶぅ」
 重たいカゴを受け取って、奥へと持って行ってくれた弟たち。
 その背中を見ながら縁側にあがったとき、なぜか気になってもう一度アパートのほうを振り返った。