「そりゃ、すげぇ。どうせなら蹴りも食らわせりゃよかったのに」
 さすがにそれは。
 でも確かに、ビンタのあとに蹴りも出そうになったけど。
 山家さんが、ビールを持った手と一緒にクククと小さく肩を揺らす。
「そういや、イチゴはそろそろクライマックスを迎えるころじゃない?」
「うん。今月から来月にかけてが一番忙しいかなぁ。去年は山家さんが手伝ってくれたから、ほんと助かった。ありがとね」
「いやいや、突然のことだったし。大変だったね」
 お父さんが居なくなってしまって、もうすぐ一年。
 ちょうど、我が農園は一年で一番忙しい時期を迎えていて、お母さんは完全にパニックになっていた。
 旬のイチゴはどんどん出荷しなくちゃいけないし、夏に向けてほかの野菜たちの作付け準備もたくさんやらなきゃいけなかったし……。
 お父さんがやってたことを、突然、ぜんぶお母さんがひとりでやらなきゃいけなくなった。
 そんなとき、翔太のお父さんと、このお隣さんの山家さんがいっぱいお手伝いをしてくれて、宝満農園はなんとか危機を乗り越えられた。
「山家さん、今年はお手伝い、大丈夫だから。いまのところ、翔太と翔太のお父さんがお手伝いしてくれてるし、山家さんのお仕事の迷惑になったらいけないし」
「うん。実はいまちょっと大きな仕事を抱えててね。残念だけど、今年は手伝いは無理みたい。その代わり、消費者として加勢するから」
「あはは。ありがと」
 我が宝満農園の主な商品は、ケーキ屋さんやパン屋さんに買ってもらう加工用イチゴのほか、そのイチゴで作った特製ジャム。それから野菜類が少々。