ああ……、結局、まだお母さんに彼の顔にバッグを投げつけてしまったこと話してない。
 言おう、言おうって、ずっと思ってるのに。
「お母さん、弱火にしたらあとはちょっとゆっくりしてて。あたし、洗濯物取り込んでくる」
「あー、ごめんね。ありがと」
 縁側の引き戸を開けて、庭に出た。
 見上げると、優しい光のお月さま。その光を受けて、庭の砂がキラキラしている。
 とってもキレイ。
 このドッジボールができるくらいの砂地の庭が、あたしが産まれる前からの我が家の中心。
 この庭を、母屋、納屋、鶏小屋、温室が取り囲んで、さらにその周りをちょっと背が高い雑木林がぐるりと巡っている。
 東側だけは、雑木林の代わりにお隣さんの石垣が我が家を見下ろしているけどね。
 庭の西の端にある納屋の後ろは、畑と野菜のビニールハウス。
 イチゴだけじゃなくて、季節ものの野菜もたくさん作っているの。
 そして、母屋の裏は、北側の丘に向かってだんだん高くなっていて、このなだらかな丘に我が家自慢のイチゴたちのビニールハウスがずっと奥まで海の波のように並んでいる。
 途中で急に坂がきつくなって、奥の方で一段上がっているから、なんだか日本画の波みたいに見えるのがちょっと面白い。
 ぜんぶ合わせるとどれくらいの広さだろう。
 たぶん、野球ができるくらいの広さかな。
 ただ、母屋もハウスもぜんぶ雑木林に囲まれているから、前の道を通る人にはここは単なる林に見えるみたい。
 だから我が家は、知る人ぞ知るミステリーハウスなの。
 物干しは温室の出入口の前。
 ちょうど、鶏小屋、温室、物干しが、L字に庭の端のとんがった部分で敵の侵入を防いでいる感じ。