あたしがバッグを投げたのは、ちょうど階段の前。
 バッグをかわした翔太はそのまま階段を飛び下りて行っちゃったから、流れ弾が彼に当たってしまったことを知らないの。
 翔太も悪者にしちゃった。
 ぜんぶ、あたしのせい。
 口をもごもごさせながら思わず下を向くと、短めの髪が頬にふわりと落ちた。
 先生の前の椅子には、名前も知らないほかのクラスの男の子。
 かなり不機嫌そう。
 先生から桜色のハンカチタオルを頬に当てられそうになった彼は、体をよじってじとりと窓の外へ視線を向けた。
「ちょっと、冷やすんだからこっち向きなさい」
 彼は答えない。
 チッと舌打ちした先生。
 すると先生はグイッと腕を伸ばして、ちょっと乱暴にハンカチタオルを彼の顔に押しつけた。
 彼の頬がグイグイゆがむ。
「触られるのが嫌なら自分でやんなさいよっ」
 うわ、先生、乱暴すぎ。
 保健室の先生って、もっとこう、優しくて笑顔が素敵で……、いえ、なんでもありません。
 彼がハンカチタオルを受け取ったのを見て呆れたようにため息をつくと、先生はそれからクリアファイルに入った名簿を取ってあたしに向き直った。
「宝《ほう》満《まん》さんって言ったっけ? えーっと……、一年三組、宝《ほう》満《まん》日向《ひなた》さん」
「は、はいっ」
「そしてキミは? クラス章からすると一年四組よね」
 それを聞いて、彼は先生よりもっと大きなため息をついて、じとっと先生のほうへ目を向けた。
 怖い。
 でも、すごくキレイな顔。
 ちょっとカッコいい。
(さん)(じょう)(せい)()