聖弥くんを見下ろすあたし。
「えっと……、お返し?」
「うん。この前、日向のお母さんから聞いてな。日向が保育園のとき、教会の聖歌隊に花束を渡したって話。日向は覚えてるか?」
「え? えっと、うん」
「俺、思い出したんだ。あのときの、日向の笑顔」
 なに?
 どういうこと?
 聖弥くんがちょっと真面目な顔をして、ポケットからなにかを取り出すと、一歩近づいてあたしにそれをすっと差し出した。
「花束をもらったとき、俺、日向の笑顔を見て、なんて可愛いんだって、そう思ったんだ」
 え?
 えええ?
 もしかして、あのときの、あたしが花束を渡した聖歌隊の男の子って……。
「俺は、あのときからずっと、日向を捜していたのかもしれない。これは、あのときのお返しだ」
 うそ。
 信じられない。
 あのときの男の子が、聖弥くんだったなんて……。
 これ以上ないくらいの、聖弥くんの笑顔。
 ハッと我に返って、彼が差し出したその手を見る。
 その手のひらにあったのは、イチゴ色のフェルトが貼られた、小さな箱。
 え? まさか……。
「また、俺の前に戻って来てくれて、本当に嬉しい」
 まさか、まさか、まさか。
 その小さな箱のフタが、彼のキレイな指でそっと開けられる。
 すると、そこにあったのは、可愛らしい指輪。
 銀色のリングの上に、イチゴをかたどった赤い石が輝いている。
「婚約指輪だぞ? オモチャだけどな。本物は、ちゃんと自分で働いた金で買うから、ちょっと待っとけ」
 ダメだ。
 泣きそう。
 もう……、言葉が出ない。
「これでもう逃げられないぞ? 覚悟しとけよ?」