窓を開けて、そっと下を覗く。
 うわ、そんなにたくさん?
 しかもジャガイモだらけじゃない。
「お母さん、ここ、椅子置いておくから、あたしが呼んだらここに座って窓の下を見て」
「窓の下? なに?」
「いいから。まだ見ちゃだめだからね? あたし、行ってくる」
「あっ、ちょっと――」
 お母さんの病室を出て、階段をパタパタと駆け下りた。
 通用口を飛び出して、お母さんの病室の真下の駐車場へと走る。
 見えた。
 聖弥くん。
 今日も素敵な笑顔。
 やっぱり、背が高くてカッコいい。
 あたしを見つけて手を振ってくれている。
「聖弥くんっ!」
「こら、あんまり息を上げるな。もう準備できてるから、いつでもいいぞ。ほーら、深呼吸して整えて」
 ちょこんと頭に乗せられた、聖弥くんの手。
 もう、未来の奥さんを子ども扱いしないで。
 すると、聖弥くんの向こうから聞こえたのは、聞き慣れたアニメ声。
「翔太っ! アタシの頭もなでなでしなさいっ!」
「なんでだよっ!」
「じゃ、アタシがするわっ! ジャガイモっ、よしよしっ」
「うわ、やめろっ!」
 そのやり取りを、さらにその向こうのジャガイモの集団がゲラゲラ笑って眺めている。
 駐車場に置かれているのは、ビールケースとベニヤ板で作られた簡易ステージ。
 ステージの前は、観客役の野球部員たちでいっぱい。
 駐車場で車を降りた人も、なん人か立ち止まって見ている。
 ステージの横には、我が家から運んできたアップライトピアノ。
 ピアノには、聖弥くんのお父さんがスタンバイしていた。
 聖弥くんのお父さん、すっごくピアノが上手なんだよ?
「日向ちゃん、もういつでもいいよ」