「いまのところ、目立った後遺症はないみたい」
「よかったぁ」
 あの嵐の夜から一か月。
 すっかり夏になって、見上げると空は一面、ソーダ水みたいな素敵なブルー。
 病室の窓から見上げる空も、もう明日で終わり。
 お母さん、やっと退院できるって。
 あの夜、聖弥くんのお母さんは、ハウスの補強を終えて戻ってきたお父さんに肩を抱かれて、うなだれたまま帰っていった。
 ちょっとかわいそうだったけど、でも、負けてらんないもん。
 あたしが淹れた熱いお茶を飲んで、「いいお茶」って小さく言ってたな。
 一緒に、自慢の特製ジャムをクラッカーに乗せて「どうぞ」って差し出したら、ちょっとあたしを睨んだあと無言で口に運んで、それからなぜか急に泣きそうな顔になってた。
 結局、聖弥くんは、またあのアパートで暮らすことになった。
 でも今度は、寝泊り以外はほとんど我が家に居るんだけどね。
「お母さん、田中さんとこのイチジクが売店に出てたよ? 買ってきたけど、食べる?」
「いいね。もらおうかなぁ」
 翌日、翔太のお父さんがいろいろ話してくれた。
『ノブちゃんが聖弥くんのお母さんだったなんて、まったく知らなかった』
『ノブちゃんは、俺の同級生だ。もちろん日向ちゃんのお母さんとも。まぁ、みんなこの田舎町で生まれ育った、幼馴染みってやつだな』
『宝満農園の隣、聖弥くんが住んでたアパートがあるあの敷地は、ノブちゃんの実家だったんだ。母屋はもうないけど、残っているあのアパートがもともとは離れでな。一階が納屋で、二階が子ども部屋だったんだよ』
『ノブちゃんとこは稲作農家で、宝満農園はまだそのころは養鶏場だった。とても仲がよかったらしい』