早くしないと、上の段のハウスが浮き上がっちゃう!
 突然聞こえた、翔太の怒鳴り声。
「三条っ! あんたは大人しく寝てろっ! 日向は残って三条の看病だっ! 父ちゃん、晃、アンカー打ちにいくぞっ!」
「よしっ! 行くぞっ、翔太兄ちゃん!」
 晃が駆けだす。
「アタシも行くわっ!」
 ユニフォームの上にカッパを羽織る小夜ちゃん。
 すると、聖弥くんのお父さんがスーツの上着を脱ぎながら、パッと翔太と小夜ちゃんのほうを振り返った。
「おお、みんな勇ましいなっ。私も行くぞっ!」
「よしっ! オッサンも来いっ! みんなでハウスが飛ぶのを阻止するぞっ!」
「おおう!」
 勢いよく出て行く、翔太、小夜ちゃん、晃、聖弥くんのお父さん。
 そして、最後に出て行こうとした翔太のお父さんが、ちょっと立ち止まって言った。
「日向ちゃん、ノブちゃんをよろしく」
 ん?
 ノブちゃん?
 それって、聖弥くんのお母さんのこと?
「よしっ! 行ってくるっ!」
 バッと飛び出して、雨の中を走って行く翔太のお父さん。
 そのすぐあと、翔太のお父さんを追いかけて駆けてゆく山家さんの姿がちらりと見えた。
 開け放たれた玄関戸の向こうは、まるで台風のような嵐。
 バチバチと大粒の雨がタタキを打って、そのしぶきが土間に飛んできている。
 ハッと我に返って、聖弥くんの背中を押す。
「聖弥くんは寝てないとダメ」
 チラリと目をやると、聖弥くんのお母さんが居間のあがりかまちに、へなへなと腰を下ろしたところだった。
 ずいぶんまいっているみたい。
 すぐ温かいお茶を淹れてあげよう。